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「指示待ちが日本ラグビーの現状」
田中史朗、指揮官とともに改革を。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2017/05/06 07:00
高い精度と正確な判断でパス回しの起点となる田中。ジェイミー・ジャパンの司令塔、そしてリーダー役としてもチームを引っ張る。
ジェイミーが怒り役、ブラウニーが褒め役の名コンビ。
エディー・ジャパン時代は、プランの遂行力が求められた。エディーはそこに日本人の強みを見出したからだ。しかしジェイミー体制では、サインプレーも選手たちのアイデアが求められたり、チームの作り方が変わってきている。
首脳陣もただ選手たちに要求ばかりしているわけではない。ジェイミーはヘッドコーチとしてにらみを利かせているが、ブラウンが“褒め役”となって、選手たちにポジティブなムードを植えつけている。
「これもハイランダーズのときと同じ構図です。ジェイミーが怒る。ブラウニーが褒める。ふたりひと組でいいコンビです」
特にブラウンのコーチング力によって、田中は成長を遂げてきたが、今でも印象的な試合がある。トップリーグで一緒にハーフ団を組んでいた時代、パスアウトを東芝の廣瀬俊朗にインターセプトされ、トライを奪われた。
「インゴールで下を向いてたら、ブラウニーに『顔を上げるんだ!』と怒鳴られて。その一喝で気持ちが切り替わって、東芝のトンガ人のウィングをバチーンと一発で倒したんです。そしたらブラウニーが褒めてくれて、最後は彼のトライで逆転勝ち。彼からゲームに対する姿勢、考え方を本当に学びました」
自分の定位置を守るため、技術を隠すなんてしない。
いま、田中はかつてのブラウンの立場に近づきつつある。
「若い選手たちには、僕が持っている知識、情報は伝えています。自分のポジションを守るために、テクニックを隠すなんてことはしません。だから、もっともっとどん欲になって欲しい」
ジェイミー、ブラウニー、田中。ニュージーランドで花開いたそのスタイルが日本に移植され、これから3年かけて開く花は、どんな色合いになっていくのだろうか。
(Number916号『田中史朗 ジェイミーとブラウニーと僕。』より)