ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
30年間マスターズを撮り続けた男。
レンズ越しに見た松山英樹の“芯”。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2017/03/26 07:00
ゴルフは、決して瞬間的な動きが多い競技ではない。しかし、カメラマンによって切り取る瞬間は実は全く違うのだ。
初出場から落ち着いていた松山は「不思議な男」。
前年秋のアジアアマチュア選手権を制してマスターズに初出場した松山は当時、東北福祉大の2年生。
「あの時は球が曲がりまくっていて。13番ホールの左にある、つつじの花々の中から打っていた(笑)。それが良い写真でね……。僕があそこから打ったのを見たことがある選手は、セベ・バレステロス、ジャン・バンデベルデ、あと松山だけ」と宮本氏は笑う。
「ただ、オーガスタの硬いグリーンでもファーストバウンドがそれほど大きく跳ねないショットが印象的だった。スピンコントロールができる。それでまた、初めて出ているのに落ち着いているんだよ。興奮もしない、でも冷めているわけでもない。なんか不思議な男だなあ、と思った」
日本人がグリーンジャケットを羽織るシーン。それは今、30回目のマスターズを前にして宮本氏もイメージできるようになった。世界で指折りのゴルフカメラマンの期待も、ファンが持つそれと大きくは変わらない。
「PGAツアーには世界中の上手い選手がいて、誰もが恐怖心を持つ。僕らはレンズ越しに選手の目の“芯”を見る。選手は不安になったり、スコアが崩れたりすれば目が泳ぐ。松山だって、それを払拭するのに時間がかかったと思う。見る側の立場ではすごいと思っても、本人の中ではどうも納得していない。それがやっと去年、自分のランキングと、自信や手応えがマッチし始めたんじゃないかなと思う」
昨秋からの破竹の勝ちっぷりで、世界ランキング4位という揺るぎなき実績。チャンスは必ずある、と信じられる。
勝者の条件は、オーガスタで人気があること。
宮本氏がレンズ越しに見てきたマスターズチャンピオンに共通するもの。それは「オーガスタのギャラリーに好かれた選手」であることだという。
「オーガスタで人気がある選手、それがアーノルド・パーマーであり、ベン・クレンショーであり、フレッド・カプルスだった。彼らはどこか、アメリカ人が好きな感覚、フロンティアスピリットのようなものを持っていた。その思いはお客さんにも通じるんじゃないかな」
これまでの日本人選手で、そんな雰囲気を漂わせていたのは「片山晋呉だった」そうだ。「晋呉は頭の良い男。自分のスタイルを合わせて、オーガスタを味方に付けた。ここで何が必要か、彼はそれを分かっていたと思う」
サイズに恵まれなかった片山は、創意工夫と比類なき努力でマスターズでも人気者だった。2009年に日本人史上最高位の4位に入った頃には、カウボーイハットがパトロンの間でも完全に定着していたはずである。