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30年間マスターズを撮り続けた男。
レンズ越しに見た松山英樹の“芯”。 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byYoichi Katsuragawa

posted2017/03/26 07:00

30年間マスターズを撮り続けた男。レンズ越しに見た松山英樹の“芯”。<Number Web> photograph by Yoichi Katsuragawa

ゴルフは、決して瞬間的な動きが多い競技ではない。しかし、カメラマンによって切り取る瞬間は実は全く違うのだ。

「見た瞬間に震え上がっちゃったよ」

 駆け出しの未熟さからくる悔しさ。情熱は保ち続ければいつか実を結ぶ。ついにカメラマンの取材パスの申請が通り、堂々と本戦も撮影できることになったのは1989年だった。

 若かりし時代の憧れは抜きにしても、世界中のコースを撮影してきた宮本氏にとっても、オーガスタは特別だという。その目に初めて当地の風景を焼き付けた衝撃は、今も変わらない。

「見た瞬間に震え上がっちゃったよ(笑)。光の入り方に感動した。もちろん芝もきれいだけど、空間をうまく利用していることに驚いた」

 コースに立ち並ぶ樹齢数十年を超える当地の林は、密集地帯が当然ある一方で、残されるべき木と、伐採されるべき木がその都度選定されている。細やかな神経は枝葉にまで及び、“乱立する木々”という表現はふさわしくない。

「その木の選定の仕方がオーガスタならでは。木を選び、枝をそぎ落とすことで、コースにギリギリまで光がたくさん入る」

 恐ろしいほどに整った輝く緑の芝に、選ばれし木々の影が刻まれる。光と影が織りなすコントラストは、小枝や葉先の輪郭までも映し出す。それは濃淡を持ったさざ波のようであり、きめ細かい柔らかなレースのようでもある。

「木を選定しないコースでは、木々が詰まることで影はベタッと大きくなり、ぼやけてしまう。木の筋の影も、光の筋も生まれない。本当は日本人が持っているはずの繊細さがオーガスタにはある。エクスキューズも妥協も許さず、とことんこだわる。そんな丁寧な仕事が生むものに皆が感動する。それはオーガスタで学んだことかなと思う」

表彰式に日本人がいる想像をしたことはなかった。

 さて、これまで29回のマスターズ取材において、とりわけタイガー・ウッズの全盛時代を写真に収めてきた宮本氏。もちろんAONをはじめとした日本勢の奮闘ぶりも熟知している。だが、厳しくもこう言う。

「グリーンジャケットを日本人選手が着るということ、表彰式に日本人がいるということをイメージしたことはなかった。悪いけど……そういうもんだと思ってたんだ」

 だからこそ、6年前に抱いた感情は異質と呼べるものだった。2011年、松山英樹がアジア勢として初めてローアマチュア賞を獲得した時の感動である。

「何回も表彰式に立ち会ってきたけれど、感じたことのない喜びが湧いてきた。タイガーが勝った時よりも、もっと鳥肌が立った。『ここに日本人が立った。そんな瞬間があるんだ』という、別次元の嬉しさだった。たぶん……僕は出てたと思うんだ、涙が」

【次ページ】 初出場から落ち着いていた松山は「不思議な男」。

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