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「簡単じゃない。でも不可能じゃない」
フルマラソン2時間切りへの挑戦。
 

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2017/03/10 15:00

「簡単じゃない。でも不可能じゃない」フルマラソン2時間切りへの挑戦。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

男子フルマラソンの世界記録は、2014年にベルリンマラソンにてデニス・キメット(ケニア)が記録した2時間2分57秒である。

結局、一番大切なのはアスリートの感覚である。

 マラソンシューズといえば、「薄くて軽い」が常識とされてきた中で、ある意味で全く別方向からのアプローチを見せたことになる。この方法論は一般販売モデル(ヴァイパーフライ4%)にも活かされているという。フットウエア部門のシニアディレクターであるブレット・スクールミースターはこう語る。

「結局、一番大切なのは、アスリートの感覚なんです。だったらそれを重要視すればいい。今回のチャレンジをするにあたって、選手からは『アスファルトを走るので、クッション性が欲しい』『堅いコンクリートの衝撃を和らげたい』という声が多かったんです。だから、ソールを厚くしてクッション性を上げた。

 でも『重いのは嫌だ』という声もあるので、どうしたらそれを解決できるのかを考えました。

 そこで、これまでシューズに使われてきた素材をもう一度、1から見直し、いかに要望に応えられるかを考えたんです。その結果、いままでよりクッション性が高く、かつ軽いシューズデザインが完成したんです」

「今までの伝統を破ろう」という想いを伝えたい。

 その精神は、アパレルでも同様だ。ウェアにおいても、いかに新たな進化を見せられるかを、常に考え続けてきたという。生理学者でナイキスポーツ研究所のアパレルリサーチ担当、ダン・ジュデルソンもこう言う。

「マラソンのランニングスタイル自体を新しくできないか、という想いがあったんです。例えば、今回の挑戦では選手がハーフタイツを着用しますが、これはこれまでと比べて全く新しいスタイルです。だからこそ最初は選手が取り入れてくれるかどうかが心配でした。普段のパンツとは全く違いますからね。

 でも計算上はこちらの方が早く走れるはず――。

 そう決めた以上は、一番大切なのはアスリートにいかに納得してもらえるかです。『いままでの伝統を破ろう』という想いを納得してもらうように努力しました。彼らの要求を満たし、安心して走ってもらえるようにしようとした。そのためにはアスリートと一緒に時間を過ごし、言葉を聞くことが大切なんです」

 いままでの“常識”にとらわれずに、どうやってブレイクスルーを起こすのか。

 シューズやウェアに加え、トレーニング方法や食事など、これまでの常識をリセットすることではじめて、今まで考えられなかった次元に到達できるということなのだろう。

【次ページ】 「簡単じゃない。でも不可能じゃない――」

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