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「簡単じゃない。でも不可能じゃない」
フルマラソン2時間切りへの挑戦。

posted2017/03/10 15:00

 
「簡単じゃない。でも不可能じゃない」フルマラソン2時間切りへの挑戦。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

男子フルマラソンの世界記録は、2014年にベルリンマラソンにてデニス・キメット(ケニア)が記録した2時間2分57秒である。

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Shigeki Yamamoto

 イタリア・ミラノ北西部にある小さな都市・モンツァ。

 F1ファンの間では、お馴染といっていい街だろう。高速コースとして名高い「モンツァ・サーキット」を擁し、数々の名勝負が繰り広げられてきた伝統がある。だが、この日はそのコースに、フォーミュラカーの姿は1台も見えなかった。

 代わりに、普段と違って観客のいない2.4kmの周回コースを行き来するのは、数多くのスタッフたち。そして、前人未到の記録を目指す3人のランナーたちだった。

 エリウド・キプチョゲ(ケニア)、ゼルセナイ・タデッセ(エリトリア)、レリサ・デシサ(エチオピア)。

 五輪の金メダル、ハーフマラソンでの世界記録をはじめ、多くの世界大会で活躍実績がある彼らがモンツァに集合したのは、スポーツメーカーのナイキが主導する「Breaking2」プロジェクトのためだ。

ナイキが目論む「フルマラソン、2時間切り」。

「フルマラソンで、2時間を切る――」

 そんな無謀ともいえる挑戦・プロジェクトをナイキが始めたのは、今から4年前のこと。「Breaking2」と名付けられたこの夢物語は今年、ついに最終章を迎えようとしている。

 3月7日、冒頭のモンツァで行われたのは、3人のランナーによる「Breaking2」本番に向けたトライアルだった。

 本番のコースで、本番同様のペースで、周囲のスタッフたちも同様の条件で、走る。距離こそハーフマラソンまでだが本番に向けた模擬レースである。

 午後5時前、スタート前の現地は強風に悩まされていた。ナイキ関係者も「本番がこの風だったら、おそらく延期だろう」というほどの厳しい条件の中で、トライアルは静かにはじまった。

 5人程のペーサーとともにスタートした3選手は、先導車に導かれ刻々とペースを刻んでいく。故障明けで万全ではないというデシサは7km付近で遅れたものの、キプチョゲとタデッセは全くペースを崩すことなく淡々とトライアルを進めて行く。ペースメーカーが次々と入れ替わっていくその後ろを、選手たちは涼しい顔で走り続けていた。

【次ページ】 選手達の言葉に、日本と世界の“常識”の差を感じた。

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