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神野大地はマラソンでも神なのか。
五輪代表3人に勝利した異常な粘り。
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph byEKIDEN NEWS
posted2017/02/12 07:00
陸上長距離界に旋風を巻き起こす青学大。その象徴の1人である神野は卒業後も明確な結果を残している。
神野のトラックのスピードは明らかに劣るが……。
下記は、それぞれの10000mベストタイムである。
村山紘太 27分29秒69
大迫傑 27分38秒31
設楽悠太 27分42秒71
神野大地 28分17秒54
神野の力は、トラックのスピードでは明らかに劣る。
持久力や駆け引きが要求されるフルマラソンと比べ、ハーフマラソンでは基本的なスピードが優劣を決めるというのが定説である。
では、神野が並み居るオリンピアンを負かした力の源は何だったのか? レースでの走りっぷりが彼の強さを物語っていた。とにかく粘るのだ。
苦しい5区山登りで培った「粘り」が終盤に生きた。
日本記録を上回るハイスピードで進行する集団では、海外招待選手たちによる揺さぶりが何度もあった。次々と日本選手が脱落する中、神野も何度も離れかける。しかし、そのたびに懸命に腕を振って集団に食らいついた。
離れても2~3m、細かなアップダウンで変化するペースを見逃さない。また、コースの最短距離を走るテクニックも駆使した。そんな場面が10回以上あったと思う。余裕をもって集団についていく大迫、設楽らとは対照的だ。
15km過ぎの勝負所、優勝したホーキンスがペースアップすると、集団は大きく縦長になった。ここからは、ただ集団についていくという作戦はない。残った力を振り絞り、できるだけペースを落とさない、まさに「粘り」の勝負となったのだ。
箱根駅伝の5区山登りは、スピードこそ出ないがとにかく苦しい。急な傾斜の坂が続くので、リラックスして走れる場面が全くないのだ。神野の粘りはここで発揮され、あるいは磨かれて“山の神”となった。