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神野大地はマラソンでも神なのか。
五輪代表3人に勝利した異常な粘り。
posted2017/02/12 07:00
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph by
EKIDEN NEWS
先頭のカルム・ホーキンス(イギリス)が優勝テープを切ってから間も無く、熾烈な2位争いをする集団がスタジアムに入ってきた。ケニアやエチオピアから来日した0.1秒を争う3人の精鋭だ。
そのすぐ後ろ、ひときわ小さな神野大地(コニカミノルタ)が、必死の形相で集団を追いかけた。その神野の後方100m足らずで、2人のオリンピアンがもがく。両者共にリオ五輪代表、名実ともに日本のトップアスリートである。ほどなく、神野がストップウォッチのボタンを押しながらフィニッシュする。
日本を代表するスピードランナー、大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)と設楽悠太(ホンダ)に“山の神”神野大地が土をつけた瞬間だった。
第71回香川丸亀国際ハーフマラソンは、前日の記者会見からいつもと様相が違った。この大会は例年、「別府大分毎日マラソン」が同日開催となる。世界陸上代表選考会である通称「別大」には全国紙の陸上担当記者が集まる。しかし、今回ばかりは数名のベテラン記者が丸亀を選んだ。
大迫、設楽悠、村山の五輪ランナーに競り勝った価値。
理由はただひとつ、男子ハーフマラソンの日本記録が10年ぶりに更新される期待が高かったからだ。とりわけ、アメリカに拠点を置き国内レースを走る機会が少ない大迫への注目度は高かった。レース出場もリオ五輪以来とのこと。日本人初の「ハーフマラソン60分切り」の可能性さえあったのだ。
レース中、テレビ画面に映し出される大迫の身体はシャープに絞られ、表情には緊張感が漂っていた。丸亀ハーフに向けて仕上げてきた証拠だ。もう1人のオリンピアン、設楽悠太の鼻息も荒い。レース半ばで脱落したが、10000mの日本記録保持者・村山紘太(旭化成)もリオ五輪代表である。
つまり神野大地は、日本を代表するスピードランナー3人に勝利したのだ。