マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
センバツ優勝投手がなぜ大学進学か。
智弁学園・村上の決断を肯定する。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/02/07 08:00
志望届を出せばもちろん指名はあっただろうが、大学進学を選んだ智弁学園高校の村上頌樹。その決断の行く末を見届けたい。
パワータイプとテクニシャンはスイッチが違う。
パワーピッチャーが持っているスイッチは、おおむね“オン”と“オフ”である。速球を武器にしてプロで奮投を見せている投手のほとんどは、投球練習でも投げるボールが一気に速くなる。創価大・田中正義(現・ソフトバンク)がそうだった。
対して、テクニシャンが持っている出力の“目盛り”は、1があり、2があり、3があり、といわゆる1刻みである。
この一種の“法則”は、私が17年間、さまざまな快腕、剛腕をこの手とミットで受けてきた結果から導いた、かなり確度の高い法則だ。
ドラフト直前、智弁学園高・村上頌樹が東洋大学に進学するという報道に接した。
英断だと思った。
彼と彼を取り囲む人たちの見識すら伝わってきた。
すばらしい逆スピンを帯びた一級品の速球の“質”は持っているものの、球速のアベレージは140キロ前後であること。超高校級の勝負球・チェンジアップを内外、高低に配するコントロールは持っているものの、初回に走者を許し、ピンチを招きがちな立ち上がりの不安定さ。
すでにプロの域に達している部分もありながら、同時に幼さも残すピッチングを、「東都六大学」という学生野球屈指のハイレベルな世界で、時に痛い目にも遭いながらさらに高いレベルに引き上げるための4年間。
当を得た選択と、敬意を払いたい。
幼少期のエピソードで、“根っこ”がわかる。
淡路島で生まれ育ち、小学校に上がる前からお兄さんの少年野球について行っては、選手やコーチにキャッチボールをせがみ、相手が音を上げてもまだ、投げて、投げて、投げまくっていた“野球小僧”。
小学生のくせに、ストライクだと思った球をボールと判定されると、「これでどーや!」とばかり、もう1球、同じコースに投げ込んで球審の右手を上げさせていた勝負根性。
やがてはプロで奮投するはずの“根っこ”を持っているヤツだ。
自身を懸命に磨きながら、プロへ進むタイミングを計ろう。
それも野球センスだ。