炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープに“当たり前の規格外”が。
記録では語れない菊池涼介の貢献。
posted2016/12/06 07:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
壇上でスポットライトを浴びるセ・パ両リーグのベストナインに選ばれた選手たちの晴れやかな表情を、ライトが消された丸テーブルに座った菊池涼介が眺めていた。
11月28日、都内のホテルで行われた「NPB AWARDS」。セ・リーグの二塁手部門は、40票差でヤクルト山田哲人に譲った。チームメートの新井貴浩が選ばれたMVPの得票数も2位だった。2年連続トリプルスリー、精神的支柱ともなった広島のシンボル的ベテランの存在感には勝てなかったのか――。まばゆい壇上と薄暗いテーブル席に、野村克也氏が「王、長嶋がヒマワリなら、俺は月見草」と例えた言葉が思い出された。
今年の菊池の働きもまた月夜にひっそりと咲く月見草のようだったのかもしれない。花言葉にある「無言の愛」で広島を支えた献身性は、派手さはなかった。だが、そこに菊池の進化、凄味が隠されているように感じる。
菊池の守備力をいつの間にか「規格内」に感じていた。
特別な時間も、続けば知らぬ間に当たり前になっているものだ。イチローが初めてシーズン200安打を達成したときの衝撃は、それ以降も同じ熱で続くことはなかったし、10年目には200本に達しなかったことがニュースとなった。165キロの衝撃を受けた今、大谷翔平が162キロを投じたところで驚きは大きくはなくなってしまった。
特別なことを当たり前に感じさせる。それこそまさに超一流の証しなのかもしれない。
菊池の守備力は規格外だ。これまで何度も驚かされてきた。ただ、これもまた気づけば菊池という選手の規格内のプレーとして受け入れるようになっていた。何も気に留めずスコアブックに「4-3」「4-6」と記すことも多々あった。冷静に考えれば、どれだけビッグプレーがあったことか。