炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープに“当たり前の規格外”が。
記録では語れない菊池涼介の貢献。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/12/06 07:00
真っ先に守備を語られがちだが、2ケタ本塁打を通算3度、盗塁数を4年連続で2ケタに乗せるなど攻撃面でも大きく貢献している。
広すぎる守備範囲でエラーが記録されることも。
菊池自身は今季のベストプレーに、5月21日阪神戦(甲子園)でヘイグのライナー性の打球を「今までで一番飛んだ」プレーとして挙げた。右に左に上にと、菊池がアウトに仕留めるエリアはとてつもなく広い。
対戦相手にとって、“エリア33”に打てばヒットは諦めなければいけない。その新常識は公式記録員も惑わすほど。その日も菊池は普通なら一二塁間を抜ける右前打となる打球に追いついた。だが、球際ではじいたことで、「E」ランプがともった。菊池の読みと判断速度、脚力がなければ追いつけなかったはず。いわば、菊池だからこそ失策が記録されたプレーでもあった。
対戦相手よりも、毎日のように見ているチームメートには完全に“エリア33”が頭の中にインプットされた。一二塁間のコンビを組む新井は「最初は分からず一二塁間の打球も追っていたけど、今ではすぐに『キク!』って言ってしまう」。確かに復帰当初は一二塁間の打球を追い過ぎた新井が取れずに一塁へ戻るのを捕球した菊池が送球待ちしている場面もあった。慣れによって、連係は高まっている。
1本の安打が1アウト、2アウトになるのだ。
新井とともに昨季復帰した黒田博樹も菊池の守備力に驚いたように、移籍選手にとっては衝撃だろう。それでも1年もしないうちに慣れる。今季新加入のヘーゲンズはシーズン終盤には「びっくりする守備をしてくれるが、もうすっかり慣れてしまった」と笑っていた。
先発2勝目を挙げた9月4日ヤクルト戦でも、菊池に助けられた。2回に前日2安打2打点だった西浦の二遊間を抜けそうな当たりにスピードを緩めぬままトップスピードでダイビングキャッチ。倒れた状態から正確なグラブトスで二塁へ送り、併殺を成立させた。
1本の安打が1アウト、2アウトになるのだ。相手にとっては勢いを失い、味方にとっては勢いづくきっかけとなる。投手を助け、試合の流れを渡さずに引き寄せるプレーで、広島の快進撃を陰で支えていたと言えるだろう。