マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“黒田の後”を託された慶應ボーイ。
広島1位・加藤拓也は相当いいぞ。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/11/25 08:00
4年間で積み重ねた奪三振数はリーグ歴代15位の309。本格派の加藤は黒田後のカープ投手陣の新たな軸となれる素養を持つ。
7四球はいつも通りでも“幼いボール”が激減。
四球7つ。
際(きわ)のボールをストライクにとってもらえないのは、荒れ球という先入観をジャッジする者に持たせてしまったせいなのか。それでも、投げた瞬間に抜けてしまったような“幼いボール”はほとんどなく、いつものように四球の数は多かったが、見極められた四球より、際どいコースに手が出なかったほうがずっと多かった。
同点から2点リードしたばかりの8回、早稲田大の3番・石井一成遊撃手(4年・作新学院)を打席に迎えた。間違いなく、加藤が最もマークしていた打者だ。20日のドラフト会議では日本ハムに2位で指名されている。早慶の主軸同士、意識しないわけがない。
石井が粘ってフルカウントに持ち込んだ。
石井の負けだと思った。石井のバットに加藤の渾身のストレートを弾き返す瞬発力はない。
いつの間にそんなに大人の投手に……。
捕手・郡司裕也(1年・仙台育英高)が石井の足元で背中を丸めた。
インコースのストレートじゃ無理だ……。次の瞬間、構えたミットにきまったのはタテにキュッとすべったスライダーだ。石井のグリップはピクリとも動かなかった。
それじゃ、柳裕也だろ……。
完全に読みを外した見事な配球。明治のエースの投球術がそのまま重なって見えた。
翌日は敗れて、月曜日の第3戦。慶應義塾大・加藤のピッチングはさらに円熟味を増したように思えた。今日が学生生活最後の神宮なのに、そんな感傷が気負いにも、力みにも、揺らぎにもなっていない。
目の前の敵を相手に、27個のアウトを積み上げることだけに徹した透明感。円熟味なんて、いちばん遠いところにあったはずのこの投手が、すごく大人っぽく見えた。