セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
長友佑都は生き残り本田圭佑は……。
去る者と残る者のミラノダービー。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/11/22 12:00
明確なタスクとともにピッチに送り出されるのは、能力を信頼されているから。長友佑都のマークマンとしての力は確かなものだ。
長友がポジティブな空気に包まれていた一方で……。
ミックスゾーンで立ち止まった長友は疲れの残る表情ながら、新体制での初戦をポジティブに捉えていた。
「監督が変わって初戦で負けると(挽回が)また難しくなるところだった。課題はたくさんあるけれど、まずは個人として求められる守備をしっかりやって。これまでも監督が変わるたびにレギュラーから外れて、でもそのたびにスタメンを奪い取ってきた自信がある。日々の練習をしっかりやっていきたい」
今の状況を楽しんでいる部分がある、とすら長友は言っていた。彼には積み重ねてきたプレーヤーとしての成熟とクラブからの信頼がある。
冬の市場での本田の処遇はまだ不透明。
長友が今いる場所に踏みとどまり挽回を期す一方、ダービーで出番のなかったミランMF本田の未来が見えてこない。
満員のサン・シーロで万雷のスタンディング・オベーションを浴びたのは、もう9カ月以上も前のことだ。
MFバデリ(フィオレンティーナ)やFWヨベティッチ(インテル)ら冬の移籍市場での補強候補が噂され、背番号10の存在感は限りなく薄まっている。
現地イタリアの一部報道では本田放出がすでに既定路線で、行先候補は北米MLSか中国超級リーグかと、まことしやかに囁かれる始末だ。
だが、実際にはサン・シーロのプレスルームでも「本田放出は不可避だ」、「いや、1月の補強は小規模に留まるはずだから本田は残る可能性が高い」と、番記者たちの間でも未だに意見が分かれている。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のミラン番記者マルコ・パソットの見立ては「本田本人はヨーロッパに残りたがっている」というものだ。中国への移籍話は信じようがない。
「本田の処遇は、来月13日の“クロージング(※中国投資ファンドへのクラブ株完全譲渡の完了手続き)”がきちんと成功裏に終わるかどうかに左右されるだろう。経営権が移れば、よくも悪くもクラブの考えは変わらざるをえない」
記者たちから話を聞いた後、キックオフを前にプレス席へ急ぐ途中、ミランの職員から行く手を遮られた。
ボディガードに囲まれながら、やや緩慢な足取りでエレベーターに乗り込むベルルスコーニを間近に見た。声に張りはなく、往年のカリスマをもはや感じ取ることはできなかった。
ダービーは引き分けに終わったが、新世代の若手が躍動するミランを見届けた齢80歳の帝王は、満足気にスタジアムを後にしたという。
もはや思い残すことは何もない、と言わんばかりに。