錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
ラリーで圧倒し、サーブに屈した激戦。
錦織圭が世界1位を追い詰めた200分。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/11/17 17:10
敗れたとはいえ、錦織の高度な技術とアグレッシブなプレーは、世界のメディアから称賛されていた。
錦織以外の出場選手の平均身長は……約191cm!!
それにしても〈世界〉はなんて大きいのだろう。
錦織以外の7人の平均身長は191cm弱で、178cmの錦織とは13cm近い差がある。「やっぱ、ちっちぇーな」と感じるのも無理はない。
その体格と大いに関係あるのがサーブの威力だが、今季このファイナルズの前までに記録したエースの数は錦織がもっとも少なく、7人の平均517本に対して錦織が245本と圧倒的な差である。
1試合平均の値では7.9本対3.4本となる。ここぞという場面で、サーブ一本で決めたりしのいだりすることができる可能性が高いことは、体力的にもメンタル的にもかなりのアドバンテージになるだろう。
マレーとの勝敗を分けたものの1つはそのサーブ力だった。
大会史上3セットマッチ最長の試合は、3時間20分。
マレーが放った8本のエースの中でも、第2セットでマレーが5-4で迎えたサービスゲーム、15-30からのエースで同点に戻したポイント、最終セットの第3ゲームでマレーがブレークした直後のゲーム、錦織にブレークバックのチャンスが2度あった中で4度目のデュースのあとに決まったエース――これらは、マレーが「幸い自分のサーブでフリーポイントがいくつかあったので、そこは助かった」と振り返った通りだ。
しかしそれらは、7-6(11-9)、4-6、4-6の試合全体の印象ではない。
アリーナの薄暗い闇の中に浮かび上がるように照らし出された青いコートの上を、1万5000人の目が追い続けた3時間20分。
その目に焼き付いたのは、コートの中を縦横無尽に駆け回る2人のプレーヤー、錦織の芸術的なローボレーやマレーの執念のランニングパス。
時に激しい稲光のように走り、時に繊細なアートのように描かれるラリーの数々だ。
試合時間を記録し始めた1991年以降、大会史上3セットマッチでは最長となる試合は、敗者にも疲れと悔しさ以外のものを残したに違いない。