錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
ラリーで圧倒し、サーブに屈した激戦。
錦織圭が世界1位を追い詰めた200分。
posted2016/11/17 17:10
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiromasa Mano
今年もATPワールドツアーファイナルズは、ロンドンで、7人の欧米人と1人の日本人によって争われている。錦織圭以外の7人が全員ヨーロッパ勢だった昨年に比べれば、カナダのミロシュ・ラオニッチが戻って来たことで多少は“多彩”になったが、大差はない。
錦織が異色の存在であることは確かなのだが、すっかりトップの一員に定着したことも事実で、特に今大会では優勝の可能性だって十分あると贔屓目ではなく誰もが思っている。
それでもなお“ミステリアス”であることには変わりないらしい。
大会のプログラムにある選手紹介の錦織に関する記述が、海外の記者たちにちょっとした驚きを与えている。イギリス人記者が書いた文だが、その中の「今年の東京の大会では、練習をするだけで9000人の観客を集めた」というくだりだ。
世界トップの一員に、日本人選手がいることの誇らしさ。
グランドスラムで優勝したり、世界ナンバーワンにでもなった選手ならともかく、まだそこに到達していない錦織がそこまでの熱狂を呼ぶことが信じられないのだ。
実際に日本での錦織を見たことがない外国記者がほとんどだし、たとえデビスカップや楽天ジャパンオープンに来て数日見たところで、理解はできないかもしれない。
ウィンブルドンのほかにATPツアー最高峰のファイナルズまで開催するイギリスの人々にはわからない――日本のテニスファンが世界トップレベルのテニスを生で見ることにどれほど飢えているか。
そのトップの一員に日本人がいることがどれほど誇らしく、テニスのみならずスポーツ界全体において特別なことか。
体格的なハンデを含めてさまざまな障壁を克服する者にどれほど心を熱くするのか。
新王者アンディ・マレーとの対戦は全米オープンで錦織が勝って以来。
「世界5位」はマレーにとっては全仏オープン以降対戦した相手の最高ランキングだ。また日本のファンの期待を掻き立てる一戦となった。