ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
オシム、叙勲受章とサウジ戦に寄せて。
「スピーディに、強い規律を持て」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byAFLO
posted2016/11/15 07:00
かつて率いた古巣、シュトルム・グラーツの試合を見つめるオシム。その眼光はジェフ、日本代表を率いた頃と同じように、強い。
解任論ではなくヴァイッドのやり方を見極めるべき。
――サウジに負けたら、ヴァイッドは解任されるだろうと日本では言われています。
オシム:私が聞いたのは別の話だ。今日、あるジャーナリストが私に言うには、彼は恐れてはいない。好条件の契約を結び、会長も彼を信頼している。協会は最後まで使命をまっとうするよう求めている。仕事をしていくうえで、こうした保障が得られるのは大きい。
――しかし状況は……。
オシム:試合に負けるたびごとに、監督の首を挿げ替えるかどうかを議論していては、監督にとってもチームにとっても良くない。見極めねばならないのは、彼がどういうやり方をしているかだ。サウジ戦に勝って予選突破が見えたならば、それは彼のやり方が正しかったからだ。敗れたのであれば、どこに問題があったかをまず明らかにすべきだ。けが人が多く、チームを固定できなかったのであれば、誰が監督であっても難しい。けが人や所属するクラブでプレーをしていない選手が多いときには、問題が生じるのは避けられない。
私が思うには、日本協会がそうしたことで問題を抱えることはないだろう。すべてうまくいくことを私も願っている。ヴァイッドも君たちも、すべての人々の成功を祈る。きっとうまくいくだろう。
努力すべきだ。いつの日か報われることを信じて。
――われわれもそう願っています。最後に日本の人々にメッセージをお願いします。
オシム:自問しているのは――どうして私が叙勲したのかということだ。私が皆さんに言えるのは、私が皆さんとともにコレクトに仕事をしてきたということだけだ。周囲の人々と常にコレクトに接し、どんな努力も惜しまない。それもコレクトな方向に。選手たちの考え方を変えるために。彼らもそこを理解すれば、日本のためにプレーすることが、自分のためでもあるということに気づく。
そこから先がどうなるのか。それを意識しながら地道にプレーを続けるすべての選手が、私のように報われる日がいつか来れば、それはサッカーにとっても素晴らしいことだ。そのために戦うべきだし、そのために努力すべきだ。時間も努力も必要だが、いつの日か報われることを信じて。努力し続ければ、人生においても成功できる。
私に言えるのはそれだけだ。天皇陛下と日本の皆さんが、これだけの名誉を私に与えてくれたことに私自身がとても驚いている。地震や台風などのさまざまな自然災害に負けることなく、皆さんが強い気持ちをもって生きて欲しいと心から願っている。
――どうもありがとうございました。