濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
未知の強豪が一堂に会した『巌流島』。
スポーツに背を向ける“実戦”の魅力。
posted2016/10/28 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
格闘技の中には、他流試合という考え方がある。
他のスポーツでは、たとえば「サッカーとラグビーのどちらが強いか」、「バレーボールとテニスが闘ったらどうなるのか」は成立するわけがないのだが、格闘技ではそれを考えるのが“アリ”なのだ。
“実戦”という言葉も普通のスポーツとは違っていて、練習の対義語、つまり試合を指すのではない。試合は文字通り「試している」だけ。“実戦”の場は、路上や戦場にある。
護身術や戦闘術としてどれだけ優れているか。そういう、スポーツとは別の捉え方の上に他流試合があり、他流試合の形式としてはMMA(総合格闘技)が現在は一般的だ。
ただ、MMAも普及し、整備され、成熟するとともに“スポーツ化”したと見ることもできる。“なんでもあり”の闘いとはいえいくつかのセオリーがあり、それに習熟したものが強い。スポーツでは普通のことだ。
でも格闘技の世界には、スポーツでは満足、納得できない人たちもいる。セオリーどおりに練習した選手が勝つんじゃつまらない。ある日突然、未知の格闘技を使う謎の戦士が登場したりはしないものか。簡単に言えば、北斗神拳や陸奥圓明流が現実にも存在してほしい。
実戦とは何か? を追求した斬新なルール。
そんな人たちのために、かつてK-1イベントプロデューサーを務め、大晦日にはボブ・サップvs.曙という異形の他流試合を仕掛けた谷川貞治氏が新しい大会を作った。それが『巌流島』だ。
CSの番組やインターネットでファン・関係者が議論し、あらゆる格闘技・武道・武術の長所を出しやすいルールを作っていくというのが『巌流島』のコンセプト。MMAやキックボクシングのように上半身裸ではなく道着着用で、試合場はリングでもケージでもない円形のステージ。寝技に時間制限があるのは、路上あるいは戦場での“実戦”において長時間、1対1の局面が続くことはありえない(すぐに加勢が来る)という考え方からだ。
また場外に投げたり押し出したりすると「転落」ポイントが入り、1ラウンド3回の「転落」で一本になるのも大きな特色だ。理屈で考えると「試合場からはみ出たところで面白いのか?」となるが、実際に見てみると相撲のようなスリリングさもあって、これはこれで“なし”じゃないなと思えるから不思議だ。