“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
一流の選手は、一流の言葉を発する。
清武と原口の成長に見る奇妙な相関。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/10/18 11:00
オーストラリア戦でも得点を決め、これで代表戦で3戦連続得点となった原口。ハリルジャパンの得点源として、完全に定着したといえる。
サッカー人生での挫折と海外経験が、2人を成長させた。
この試合、試合後のインタビューや囲み取材での2人のコメントを見ても、質問に対してひとつひとつ丁寧に思いを言葉に変える様子が感じられた。
特にオーストラリア戦後の原口は、PKを与えたことに対して大きな後悔と責任を感じ、苦しい胸の内を抱えていたはずだが、後になって、取材に対して真摯に答える姿を映像で見ることができ、改めてとてつもなく成長したことを確信できた。
2人に共通していることは、順風満帆に始まったプロ生活が、途中でうまくいかなくなる経験をしたこと。かつ、日本を飛び出して海外でプレーをすることで、「井の中の蛙」でなくなり、人生観という点においても視野が大きく広がったことにある。
苦しい時期に自分自身と真正面から向き合い、サッカー選手として海外やA代表で生き残っていくためには何をすべきかを考えたのだろう。時には仲間や海外の先輩達の話に耳を傾け、彼らの言動を学びながら、自らを客観性と主観性で捉えて行くバランスを構築していったのだろう。
その成長の証が、現在のプレーであり、言葉(=コメント力)なのである。
優れた言葉を手繰ることは、自らの客観視を意味する。
「たかが言葉、されど言葉」
言葉をしっかりと発することが出来るということは、即ち自らを客観視出来ているということ。この客観視なくしては、自分の本当の姿の本質を捉えることが出来ないし、思い込みでは無い、はっきりとした主観を持つことも出来ない。
客観と主観のスイッチを持ち、自らが状況に応じて切り替えが出来る選手こそ一流選手であり、セルフコントロールが出来ているからこそ、プレーだけでなく、言葉でも優れた評価を受けるようになるのだ。
2人は少し遠回りをしたが、この領域に到達することが出来た。そして、今後さらに彼らのピッチ内外での表現力は高まっていくだろう。
そう、成長の裏には必ず「言葉」がある。それは切っても切れないものなのだ――。