“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
試合の前に勝つのが分かっていた!?
サッカーU-16で森山監督が伝えた言霊。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2016/09/27 07:00
準々決勝のUAE戦の直前、ウォームアップに励む選手たちを見守る森山監督。この時点で……「80%我々の勝利」と監督は確信していたという。
失敗しても、すぐに態勢を立て直す粘り強さ。
まずはこのシーンに至るまでの流れを振り返ってみたい。
先制後、数多くのチャンスを作り出したものの、試合のトドメとなる追加点が奪えず、相手の鋭いカウンターに苦しむシーンもあった。それが前半残り5分を切った状況で、菅原のキックの精度も、瀬古の飛び込むタイミングもドンピシャとなったヘッドが入らない――。
普通ならばそこで少しは悔しがったり、がっくり来るものである。しかし、2人はその素振りを一瞬たりとも見せず、自陣に全力疾走で戻っていった。センターライン付近にはUAEのFWが今にも裏に抜け出さんと構えていたが、彼らのあまりにも早い帰陣に裏への飛び出しを見て諦めたかのように、その構えをやめていた。
試合後、菅原本人にこのシーンについて質問をぶつけてみた。するとこう答えが返って来た。
「僕にとっても、あのシーンは鮮明に印象に残っています。あのCKを得た時、瀬古と『俺たちが行くなら、2人で決めてやろう』と話して、絶対に点を取るつもりでCKを蹴りにいきました。同時に2人で点を決めることが出来たら、思いっきり喜んで、決められなかったらダッシュで戻ると決めていた。あのシーンでもし『あ~外した』と動きが止まっていたら、絶対に1対1や2対1(UAEの数的優位の状況)のカウンターになっていたと思います」
チャレンジは失敗したが、リスクマネジメントには成功。
試合を決める覚悟でCKに臨み、そこで仕留められなくても、自分達が全力で戻ることで、相手のカウンターを封じる。最初から2人の中でチャレンジとリスクマネジメントが両立していたのだ。そして、彼らのチャレンジはあと一歩のところで成功しなかったが、瞬時に鬼気迫る勢いで戻ったことで、リスクマネジメントには成功したのだ。
これこそが森山監督が植え付けた真の「戦う気持ち」であり、それが勝負を引き寄せる引力を発生させたのだ。
この引力を発生させたのは彼ら2人だけでは無い。平川怜と福岡のダブルボランチの引力も強烈なものだった。
「平川はチームで一番ボールを落ち着かせることが出来る選手。今日も何度もカオスになりかけたゲームを、何度も自分達の下に戻してくれた選手。福岡はすべてを懸けて戦ってくれる選手。よく選手達には『ぶっ倒れるくらいまで走れ』と言いますが、本当にあいつはそれをやってくれた」(森山監督)