“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
試合の前に勝つのが分かっていた!?
サッカーU-16で森山監督が伝えた言霊。
posted2016/09/27 07:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
AFLO
「気持ちには引力がある」
この言葉は森山佳郎監督がサンフレッチェ広島ユースの監督時代に、選手達によく口にしていた言葉であり、U-16日本代表監督に就任してからも、指導のベースとしているものだ。
「相手に勝ちたい」「ライバルに負けたくない」「ゴールを決めたい」「ゴールを守りたい」「ボールを奪いたい」――など、様々な戦いへの意欲が、プレーに現れた瞬間、ボールやゴール、勝利が自分達の下に引き寄せられるということを指す。
「2月の立ち上がりの時からたっぷり注入されているので、今日は溢れ出るくらいあったと思います」(CB菅原由勢)
AFC U-16選手権の大一番・準々決勝のUAE戦で、U-16日本代表は勝利への執念を前面に出したサッカーを展開した。31分にMF久保建英の右CKを相手GKがファンブルしたこぼれ球を押し込んだCB瀬古歩夢のゴールが決勝弾となり、1-0の完封勝利を収め、来年同じくインドで開催されるU-17W杯出場権を掴み取った。
チャンスを逸した後の2人の、驚くべき行動。
この試合、森山監督の魂がチームに完全に植え付けられていることを証明する、象徴的なシーンがあった。
それは86分のシーンだ。
MF久保建英のパスを受けたFW宮代大聖のシュートがDFに当たり、日本は左CKを獲得。この時、コーナーを蹴りに行ったのは、これまでのMF福岡慎平ではなく、菅原だった。菅原の右足から放たれたキックは、ゴール前に飛び込んだ瀬古の頭にどんぴしゃのタイミングで届く。だが、瀬古のヘッドはバーを叩き、そのままゴールを越えて相手のゴールキックとなった。
驚かされたのは、チャンスを逸した後の2人の動きだ。菅原と瀬古はボールがエンドを割った瞬間、全力疾走でセンターサークルまで戻っていったのだ。
一見、何気ないプレーに見える。だがそれは非常に重要なプレーであり、気迫が前面に伝わるプレーでもあった。