錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
銅メダルの次は全米オープン優勝だ!
錦織圭が今年最も勝負をかける大会へ。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byJMPA
posted2016/08/29 07:00
全ての関係者に喜びをもたらした銅メダル。五輪であれATPツアーであれ、運営方針が頻繁に変わり選手やファンの気持を翻弄することだけは許されない。
オーストラリアの選手でさえ五輪で人生が変わった。
今年のウィンブルドンの期間中に、ITF(国際テニス連盟)が発行した『MY LIFE, MY MEDAL』という本が、希望するメディアに配布された。
過去のオリンピックとパラリンピックでメダルを獲得したテニスプレーヤー約120名に、オリンピックが彼らの人生に何をもたらしたか、どんな意味があったかなどを語ってもらい、当時のプレー写真と現在のポートレートとともにそれぞれのストーリーが綴られている。
テニスがオリンピックに正式競技として復帰した1988年のソウル大会から前回のロンドン大会までのメダリストたちを懐かしく振り返ることができる、美しいアートブックだ。
日本人では、パラリンピックで合計3つの金メダルと1つの銅メダルを獲得した国枝慎吾が唯一掲載されている。
彼らは、メダルがいかに「特別」なものであるかを自身の言葉で表しているが、その中でも、元ダブルス世界1位のトッド・ウッドブリッジとマーク・ウッドフォードのオージー・ペアのパートが目についた。
2人はアトランタで金、シドニーで銀メダルを獲得しているが、「僕たちの名前は、普段スポーツに興味のない人々も含め、お茶の間にも知れ渡る名前になった。それが(オリンピック後の)一番大きな違いだった」と語っていたのだ。
“ウッディーズ”の愛称でテニス界では親しまれ、グランドスラム優勝に16回も輝いている伝説のダブルスペアである。グランドスラムを開催する、輝かしいプロテニスの伝統を持つオーストラリアのそんな選手ですらそうなのだから、決してテニス自体の人気が高いとはいえない日本で、その傾向はより強いだろう。
確かにオリンピックは「特別」なものだが……。
現在、日本のバラエティ番組や情報番組などにレギュラー出演、あるいは単発的に出演している元テニスプレーヤーは少なくないが、字幕で紹介される経歴の内容を見て驚くことがある。グランドスラムのベスト8くらいの最高成績を残していても、そのことは記されず、代わりに「○○○五輪出場」という実績が紹介されていることに、である(五輪期間中の特別番組はともかくとして)。
オリンピックでメダルを獲得したのならまだしも、出場というだけの記述でもオリンピックが全米オープンや全豪オープンのベスト8よりも上に来るという価値観が一般的だと言うのならば、その価値観はずれていると思わざるを得ない。多くの経験者が証言するように、確かにオリンピックは「特別」なものだが、プロテニスプレーヤーとして生きた彼女たちのハイライトは、オリンピック出場よりもグランドスラムのベスト8のほうに決まっているからだ。