様々なリスクをはねのけて五輪で活躍した錦織。

　翌週のシンシナティでの戦いの様子からは、その疲労度、特に精神的にどれほどエネルギーをすり減らしたかということがうかがえた。

　トロントからオリンピックへと続いた戦いの軌跡をたどれば無理もない。その疲れ方を見れば、オリンピックに挑んだリスクを思わずにはいられない。メダルも獲れず、ただ疲れが残っただけで、次のシンシナティに悪影響を及ぼし、挙げ句の果てはケガの悪化という最悪のシナリオも確かにあったのだ。

　しかしそんなリスクをはねのけた以上、シンシナティでの3回戦敗退など、どうということはないと誰もが思っている。

　そのシンシナティでは、錦織とライバル扱いされることも多いチリッチがタイトルをさらっていった。

　ジョコビッチが左手首の痛みで欠場し、アンディ・マレーなどオリンピックで活躍した選手に疲れが残る〈穴場〉でチャンスを生かしたのだ。

グランドスラムもマスターズも先を越されたが……。

　錦織がこれまで3度マスターズの決勝で敗れているのに対し、チリッチは今回が初めての決勝進出だった。

　錦織が2年前の全米オープンの決勝で敗れたのもこのチリッチだが、その後、ずっとトップ8を維持してきたのは錦織のほうだ。そう考えれば、グランドスラムもマスターズもチリッチに先に奪われたことは口惜しいが、今の錦織は銅メダルとシンシナティのトロフィーを取り替えてやると言われても断るかもしれない。きっと断るだろう。

　グランドスラムとマスターズの優勝はずっと目標にしていることだが、それくらい、錦織にとってメダルを持ち帰ることができた喜びと安堵は大きかったようだ。

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