マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
神奈川有数の進学校に現れた1年生。
軟式では日本一、平塚江南・富田歩。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/07/20 17:00
甲子園の確率よりも、進学校を選んだ平塚江南の富田歩。これでもし彼が甲子園にも出場するようなことになれば……。
平塚江南から近未来の“東大のエース”が?
東京大学投手・宮台康平。
この春の東京六大学は、この快腕サウスポーのおかげで大いに盛り上がった。
まず早稲田大学を13奪三振の1失点に抑えて完投。翌週は明治大学をやはり8安打1失点に抑えて完投すると、立教大学を5安打完封で破ったあたりで大きくブレーク。その勢いで、今度は法政大学まで1失点で破る大健闘。
145キロ前後に及ぶ快速球に、わかっていても捉えられないスライダー。打者の顔色をうかがいながら狙いを読み取り、タイミングを外していくしたたかなヘッドワークも冴えて、一躍学生球界トップクラスの左腕にのし上がった。
その活躍ぶりは、この春の学生球界全体の“MVP”といってもよいのではないか。
高校野球の予選と並行して行われている「日米大学野球選手権大会」でジャパンのユニフォームを着る宮台康平の姿がパッと浮かんで、湘南高に続いて、今度は同じ神奈川の平塚江南高から近未来の“東大のエース”が生まれたら……。
勝手にそんな妄想を抱きながら、第2試合・平塚江南高vs.平塚湘風高に注目した。
入学して3カ月の1年生なら緊張するのでは……。
第1試合の終盤からひどくなった雨のせいで、試合開始が1時間ほど遅れた。
もう何度も公式戦のマウンドに上がっている3年生ですら、吐き気を覚えるほど緊張するという夏の初戦。それが入学して3カ月の1年生なら、どれほどのものか。
そんな心配、していたほうがバカみたい。
初回のマウンドに上がった平塚江南の先発・富田歩の右腕が伸びやかにしなる。
172cm66kg。1年生なら、これぐらいのサイズで十分。大きな体を持て余すより、身の丈に合った体躯の全身を躍動させるほうが、エネルギーの出力は大きい。
宮台康平二世。
見る側にそういう希望的雑念があってはいけない。心の力を抜いて、ボンヤリと見る。
ノーワインドアップから2足分ほどインステップし、そこから体を一気にひねって腕を振ってくるから、ちょっと力んでリリースのタイミングが早くなると、右打者の頭のあたりにボールが抜けてくる。このあたり1年生らしい“幼さ”が残るが、その抜けたボールの勢いと強さのすごいこと。
いいな……細いのにパワーがある。