マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
神奈川有数の進学校に現れた1年生。
軟式では日本一、平塚江南・富田歩。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/07/20 17:00
甲子園の確率よりも、進学校を選んだ平塚江南の富田歩。これでもし彼が甲子園にも出場するようなことになれば……。
県内の強豪を「僕の“居場所”じゃないな……」。
ほめてばかりみたいになってきたが、しょうがない。そういう1年生なのだ。
第2打席、左中間を30度ほどのいい角度で破っていった打球は、ワンバウンドでフェンスに届いたように見えた。
4回までに4点を許したものの、その後は3安打無失点に抑えて、1回戦を勝ち上がった平塚江南・投手・富田歩。
あとから聞いた話だと、県内の強豪からはやはりいくつも誘いがあったそうだ。
中のいくつかの高校の練習を実際に自分の目で確かめに行って、「ここは僕の“居場所”じゃないな……」と感じ、平塚江南にターゲットを定めたという。
きっと受験勉強も一生懸命頑張ったのだろう。もともと、考える力、感じる力を持った生徒さんなのかもしれない。
今のウチのエースより、富田のほうが素質はずっと上ですよ……。なおも残念がる監督さんもおられるという。
“学生野球”での自己実現を目指しているとも聞いた。
甲子園からプロ野球。それも立派な目標には違いないが、それがもし漠然としたものなのであれば、こちらのほうがずっと健全な気もしている。
“野球の頂点”はプロ野球に違いないが、アマチュア野球の頂点は、人それぞれでよい。
甲子園をその頂と考える人もいれば、学生野球でもよい。さらにいえば、県の8強でもよいし、夏のメンバー入り、もっといえば3年間ボールを追い続けること、そこがアマチュア野球を全うすることでも、ぜんぜん恥ずかしいことはない。
「頑張る」とはいったい何をすることなのか。
宮台康平二世、あらわる!
そんなことは、ここでは言わない。
人が思うほど、宮台康平というレベルは決して簡単に届く領域ではなく、平塚江南・富田歩の“今”には、まだまだ勉強することがいくつもある。
しかし間違いなく、宮台康平になれる“芽”は持っている。
平塚江南には,共に励まし合いながら受験を突破してきたもう1人の快腕1年生・須藤大翔(174cm68kg・右投右打)も控えているという。
その後平塚江南は、19日に3回戦を突破している。
植物に水を与えるのは人の仕事だが、人に水を与えるのは、実は人の仕事ではない。
みずから水を求めて、みずからに水を与える。この地道で、根気のいる、簡単なようで実に難しい仕事を彼らがどれだけ続けていけるのか。
「頑張る」と人は簡単に言うが、頑張るとはいったい何をすることなのか。それはただ一つ「続けていくこと」。
忘れそうになった時、投げ出しそうになった時、この文章に立ち戻ってくれたらうれしい。