マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
神奈川有数の進学校に現れた1年生。
軟式では日本一、平塚江南・富田歩。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/07/20 17:00
甲子園の確率よりも、進学校を選んだ平塚江南の富田歩。これでもし彼が甲子園にも出場するようなことになれば……。
中学時代、軟式で全国優勝した経験からくる“実戦力”。
リリースでバランスがピタッときまった時の指にかかったボールなんか、もう低めに伸びてきて、捕手のミットをはね上げてくる。
確かに、1年生のボールじゃない。
左の脇の下に振り抜けて、指先で背中を叩きそうな腕の振り。体幹を強くしストレッチを重ねて体の回転域を広げれば、ボディースイング全体の運動量が大きくなって、しなやかな腕の振りをもっと生かせるようになる。間違いなく楽しみな1年生だ。
実戦のピッチングはどうか?
いつもこんなにインステップしてるのかな。今日は、気負って力んで、テークバックでちょっと体をねじり過ぎてるんじゃないかな。
初回、球道がバラついたのに三者凡退に抑える。
決してよくないコンディションなのに、なんとか抑えてしまう。これは非凡さの証明だ。
2回、ストライクを取りにいったボールを狙われて2点。3、4回にも1点ずつ取られて、試合前半で4失点。ここからズルズルいかなかったのが、やはり才能。“実戦力”の高さだ。
ちょこちょこ打たれながら、スッと抜いたカーブ、スライダーで追い込んでみる。そんなことをやってのける。
ボールを3つ続けてから、サッと変化球でストライクを2つ取って、気持ちの上で打者を追い込んでいく。
“後始末”の仕方を知っている。
中学時代、地元の軟式のクラブチームで全国優勝したことがあるそうだ。あとから聞いて、やっぱりね……と納得がいったこの“したたかさ”。攻められながら、一方で立て直しを図っている。
けん制とバント処理が良ければ、投手の才能はある。
はっきり、いいな! とヒザを叩いた瞬間が3度あった。
まず、一塁けん制の敏捷な体の切り返し、そして裾さばき。フットワークじゃない、けん制動作は“裾さばき”だ。今季大奮投の広島・野村祐輔投手が広陵高当時、抜群に上手かった。その記憶が重なった。
そして、バント処理の身のこなしとスローイング。捕球点でスッと全身を小さくまとめられて、強烈なスナップスローを繰り出せる。
けん制動作とバント処理。この2つの仕事が◎なら、間違いなく、投手の才能は持っている。
さらに、その走りだ。
内野ゴロでも、蹴り上げていくスパイクの足の裏がはっきりこちらに見える走り。下半身の柔らかいバネと、セーフを信じて懸命に前へ進もうとする若々しい覇気。アウトになってもなお、大きなストライドでダグアウトに戻ってくる姿に、これからぐんぐん伸びていきそうなみずみずしさがあふれる。