マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
夏の埼玉予選で出会った逸材と卵。
浦学の諏訪&蛭間、浦和北の松村。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2016/07/14 07:00
2015年の選抜大会で大活躍した浦和学院の諏訪賢吉。3年の夏、再び甲子園の土を踏むことができるか。
実戦力が高い諏訪に、1球1球ベンチから指示が飛ぶ。
実戦力。
浦和学院・諏訪賢吉の野球をひと言で表現すれば、こうなる。
速球とスライダーの腕の振りに差のない先発右腕に、タイミングを合わせきれなかった最初の2打席。しかしそのあとの3打席目にはもう、完璧に修正してきた。
走者一塁、外めの速球をエンドランで三遊間へ弾き返す。流してはいない。彼自身のミートポイントでハッシと叩いた打球が、あっという間にレフトの定位置に達する。
打球を見ていれば、どんなスイングが出来たかがわかる。引っぱったライト方向への打球と、レフト方向への打球の強さに違いがない。バッティング技術の非凡さを見抜くための、一つの大切な指針だ。
一撃加えればコールド。そんな場面で巡ってきた第4打席。
打席の諏訪も力が入るが、ダグアウトはもっと力が入る。初戦の勝ち方は、その後の予選の流れに大きな影響を与える。
最初で勢いをつけたい。
トーナメントを最後まで勝ち抜こうとする強い意志があればあるほど、そう考えるのは指導者の共通の“祈り”であろう。
諏訪ほどの打者にも、1球1球、ダグアウトから“指導”が入る。
無死二、三塁。考えられるのはスクイズだろうが、打席に立っているのは諏訪だ。まずありえない。いや、むしろ相手にとってみれば、スクイズしてくれたらありがたいぐらいだ。
投手だけに集中してもよい場面だが、諏訪も生まじめなのだろう。1球1球、ダグアウトを振り返る。
タイミングのとり方、踏み込む時の上体の姿勢、細かい指導が伝えられ、そのたび体現しようとして徐々にスイングバランスが崩れ、踏み込むタイミングに迷いが生じてきているように見えていたら、空振りの三振をしてしまった。
この打者の三振を初めて見た。ありえないものを見てしまったような、軽いショックがあった。
3年間で培った勝負所の実戦力を見たかった。
昨年の春、センバツでベスト4になったこともあれば、そこから3カ月あまり、夏の予選では白岡高という“普通の高校野球”のチームにまさかの敗戦。
人生、まさに照る日、雲る日。
高校野球界のトップリーダーのようなチームの中心選手としての3年間に、よくも悪くも幾多の経験を積んできた選手だ。こんな場面で、あんな場面で、対処の仕方のバリエーションはいくつも持っているはず。
この打席での5球、すべて相手投手とだけ向き合って、勝負どころでの諏訪賢吉の“実戦力”を見たかった……そんな心残りもあった。