話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
「アーセナル浅野」が輝くための条件。
献身性、名手との競争、そして強気。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/07/06 07:00
7月2日のJリーグ磐田戦では自慢の俊足を生かして3-0勝利に貢献。サポーターの声援に応えた。
五輪前の移籍決断はモチベーションにもなる。
また、リオ五輪前という移籍も悪くない。前例があるからだ。
ロンドン五輪前、清武弘嗣はドイツ、ニュルンベルクへの移籍を決めた。元来ポジティブな性格の清武だが、当時はやはり初めての海外でのプレーに通用するのかどうか不安も多少抱えていた。だが、ロンドン五輪で同世代ながらスペインを始め、世界と互角以上の戦いを演じ、自分のプレーも通用した。惜しくもメダルは逃したが大きな自信を得た。
「これからがスタート。でも、世界でやるのがすげぇ楽しくなったし、楽しみ」
清武はそう言ってドイツに行き、31試合4得点と1年目から結果を残した。
浅野もリオ五輪で活躍し、チームの勝利に貢献できればアーセナルに行く前に大きな自信を持てるだろうし、ポジティブにロンドンに行けるはずだ。もちろん通用せずに負けてしまえば一時は落ち込むことになるが、浅野が国際大会で世界を知るのは大きな意味があり、移籍前に経験しておくことは必要なことだ。
ボスニア戦で露呈した“弱気の横パス”はいらない。
唯一気になるところがあるとすれば、決定的なシーンで顔をのぞかせる"弱気"だ。リオ五輪アジア最終予選準々決勝イラン戦で途中出場にもかかわらずGKと1対1のシーンで横パスを出した。また6月の日本代表のボスニア・ヘルツェゴビナ戦でも決定的な場面でパスを出し、同点のチャンスをフイにしたのは記憶に新しい。
自身も「メンタルの弱さ」と口にし、その都度、反省しているが、同じことを2度繰り返しているので3度目がないとは言い切れない。海外は「俺が決めてやる」と鼻息荒い選手ばかりだ。その気迫に押されたり、弱気になってパスを選択してしまうようだと海外で生き残るのは難しい。
「ダメなプレーをした時、次の試合では必ずいいプレーができるんです」
ジンクスではないが、このように気持ちの切り替えができるのは大事な部分ではある。
しかし、決定的な瞬間に躊躇せず常に自分が決めるという気持ちの強さを維持し、表現することの方がもっと重要だ。
昨年のJリーグチャンピオンシップ決勝、ガンバ大阪との第2戦、後半の大事なシーンでゴールを挙げた。リオ五輪アジア最終予選決勝の韓国戦では決勝点を含む2ゴールを挙げて優勝に貢献するなど、浅野は“何かを持っている”選手でもある。リオ五輪のメダルを手土産に、「なんで日本人FWなんか……」という疑心暗鬼な雑音を封じ込める衝撃弾を放って、アーセナルファンの度胆を抜いてほしいと思う。