サムライブルーの原材料BACK NUMBER
U-23で一番サッカーを「楽しむ」男。
中島翔哉は、リオで最高に目立つ!
posted2016/07/02 07:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Shidu Murai
「必死」の目的が、違っていた。
リオ五輪メンバーに選ばれるため、には見えなかった。あくまで試合に勝つため、ボールを受け取って前へ向かい、味方とパスを交換し、走り、何度もスライディングを試みた。
違っていたというのは、筆者の思い違いという意味である。
これまでU-23世代を引っ張ってきた中島翔哉だが、18人枠しかない五輪メンバーの当落線上にある立場と言ってよかった。FC東京のトップチームで試合になかなか出られず、4月には右ひざじん帯損傷で離脱してトゥーロン国際にも参加できなかった。背番号は「10」から「13」に変わった。
外から見れば、崖っぷち。状況を考えれば、もっと自分というものをアピールするような独善的なプレーが出てくるんじゃないか、と勝手に思い込んでいた。
土壇場でも変わらない「個人よりチーム」。
違った。まったく違った。
彼は90分間、チームの勝利のために身を捧げようとした。その結果、2ゴールを挙げ、チームはU-23南アフリカ代表に快勝した。試合後、アルウィンの取材エリアに最後に現れた彼は報道陣に囲まれたなかで、開口一番こう言った。
「個人よりもチームが勝ったことが良かったと思いますし、それはずっとそうなんで。点を取ったからっていうのはなく、チームが勝ったのがうれしかった」
状況がどうあれ、関係ない。いつもの中島翔哉が、そこにはいた。ゴールよりも勝利を喜んでいた。
もう一つ変わらないことがあった。それは「全力でサッカーを楽しむこと」。
この日の充実した表情を見れば、必死に全力で楽しむことがある程度できたかのように見てとれた。