サムライブルーの原材料BACK NUMBER
U-23で一番サッカーを「楽しむ」男。
中島翔哉は、リオで最高に目立つ!
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShidu Murai
posted2016/07/02 07:00
チームメイトのゴールを最高の笑顔で喜ぶ。それが自分から10番を奪った相手でも。中島翔哉とは、そういう男である。
五輪前にケガをした中島は、なぜか焦っていなかった。
彼に対する勝手な「思い違い」は、最近もあった。
ケガから復帰を目指している途中、目の前に五輪という舞台があるならなおさら、もどかしさや焦りがついてくるのが普通だと思っていた。
しかし6月上旬、FC東京で話を聞いた際に中島からは、そういったものを一切感じなかった。
「ケガ自体は初めてでしたけど、特に気にしていません。五輪(のメンバー入り)がどうなるかなんて、ケガをしなくても別に誰も分からないことなので。ここからコンディションも良くなってくると思うし、まずはしっかり治したい」
自他ともに認める練習の虫であれば、ボールを蹴れないことがストレスにもつながる。だが彼は割り切ると同時に、今できることとして筋力トレーニングを重んじていた。試合に出て「サッカーを楽しむ」ための毎日を送っていた。
逆風を力に変えるというよりも、受け流す。
いい意味での図太さ。
大会MVPに選ばれた1月のリオ五輪最終予選でも、そうだった。彼は振り返って言う。
「あのとき特に緊張というものはありませんでした。自分の性格だとは思うんですけど、周りから『本大会に出られないんじゃないか』とかいう声があっても、そういうことをパワーにするというのではなく、もう普通にって感じでしたね」
ただそんな彼にも、プレーに迷った時期がある。昨季Jリーグの終盤戦、スーパーサブで出場機会が増えてきて、自らのプレーに微妙な変化を感じ取っていた。
「相手にボールを取られないことを第一に考えるようになっていて、それからゴールに向かうところがあったので、優先順位を逆にしないと、と思っていました。ボールを取られないで後ろにパスするより、たとえ取られてでも前に行ったほうがいい、と。そうじゃないと面白くもないし、自分で(自分を)見て、イライラするので」
意識して前に向かい、ボールを動かし、ゴールに迫ろうとする。その姿勢が準々決勝イラン戦での2ゴールを呼び込んでいる。「自分の出来は良くなかったし、満足もしてない」と言うが、迷いを消し去った一戦となった。