熱血指揮官の「湘南、かく戦えり」BACK NUMBER

湘南・曹監督の日記から読み解く、
若手の育成&抜擢のタイミング。

posted2016/06/15 11:00

 
湘南・曹監督の日記から読み解く、若手の育成&抜擢のタイミング。<Number Web> photograph by Shonan Bellmare

1stステージ終盤になっても、積極的な攻撃の姿勢を失わず戦えている湘南。曹貴裁監督と選手たちの、固い意志はブレていない。

text by

曹貴裁

曹貴裁Cho Kwi-Jae

PROFILE

photograph by

Shonan Bellmare

 Jリーグの監督は、目の前の試合に対してどんな準備をし、結果をどう受け止め、そしてどんな思いで次の試合に向かうのか……。
 本連載では、湘南ベルマーレを率いる曹貴裁監督が、試合に臨むまでの過程を記した前週の日記と実際の試合結果を受けての胸中を同時に紹介。
 悩み、考え、決断する監督のリアルな声を毎週お届けします!
 今週は、「若手、そしてチームの成長への手応え」が綴られています。

*本連載ではチョウ・キジェ監督の氏名表記方法につきまして、湘南ベルマーレとの協議により「曹貴裁」と統一いたします。

<第15節・G大阪戦前週の監督日記>

●6月8日(水)

 前節の名古屋戦で今季ホーム初勝利をあげることができ(2-1)、その後ナビスコカップの神戸戦(0-2)を挟んで、G大阪戦までは2週間の時間があった。これからの夏場の戦いに備える意味でも、選手にはこの2週間をミニキャンプのようなイメージでやってくれと話し、特に最初の1週間はフィジカル的な要素を上げることを狙いにしたメニューをたくさん組んで、肉体的にも精神的にも相当ハードにトレーニングを積んだ。

 これから高温多湿な気候を迎える日本にあって、我々のサッカーが本当に力を発揮できるのかという点で改めて真価を問われる時期になると思うし、走行距離やスプリント数をより効果的に、効率的に活かしていかないと勝点3を得られなくなるのは自明の事実だ。

 そういう最初の1週間を経て臨んだ神戸戦は、田村翔太や山根視来、神谷優太、そして齊藤未月などの若い選手と、坪井慶介や藤田祥史といったベテラン選手を組み合わせて試合に臨んだ。

 結果的にこれまで出場経験の少ない選手が多く出場したが、決して彼らに出番を与えるために起用したわけでなく、彼ら自身が常日頃から試合に出て勝つための準備をしていてくれたからピッチに送り出した。

 そういう中で、とかく若い選手に対しては、最初の公式戦では失敗にも目をつぶって、そこから学ばせようと考えがちだが、僕は最初の試合だからこそしっかり成功させるために起用し、そこで成功体験を得ることがどんなコーチングより価値のある体験だと思っている。

 そういう点でいつ、どういう相手の時にピッチに送り出せば良いかを深く考えている。

最初に成功体験をさせてから、壁にぶつからせるべき。

 これは中学生や高校生を指導してきた時も同じで、最初に成功体験を得てから壁にぶつかった方がその後の成長速度は加速すると思っているから。

 だから失敗を前提で試合に出すということは僕の中ではありえない。

 「何事も最初が肝心」と言うがまさにそうで、最初に成功体験を積ませることがチーム作り、指導において大事だと思っている。

 そういう意味で翔太は成功体験を得たとは言い難いかもしれないが、彼自身は自分の出来をしっかり理解しているし、この後それに向き合って次に向かって行ってほしいと思う。視来や優太、未月は長い時間ピッチに立ったが、彼らもまたこの経験を糧に、より強い選手に飛躍してもらいたい。そうするためにも我々指導者がティーチングでなくコーチングをすること。やらせてみせ、それを見守り、我慢をする。

 そういうサイクルで選手たちを見ていくことが大切だと改めて感じた。

【次ページ】 居残り練習ができないほど、ハードな練習をした理由。

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