熱血指揮官の「湘南、かく戦えり」BACK NUMBER
湘南サポーターと激論交わした曹監督。
あの時、本当に伝えたかったこと。
text by
曹貴裁Cho Kwi-Jae
photograph byShonan Bellmare
posted2016/05/24 11:20
負けが込む時でも、選手を落ち着かせ、クラブ関係者に説明し、サポーターに誠実に対応する……「監督」とはチームにとって、精神の最後の砦である。
負けてブーイングは当たり前。しかし……。
試合終了後にサポーターの方々に挨拶に回るのは、声援への感謝を伝えることはもちろん、サポーターの方が感じていることをチームを巡る環境のバロメーターとするためにも欠かさず行っている。今回も「次、頑張れよ」とありがたい言葉をかけてくれる人と、「何やってるんだ」と叱咤する人と、それぞれいらした。そうして最後に8ゲート、ゴール裏で挨拶を行なった時、そこでは7~8割の方が我々に対しブーイングをしているように僕は感じた。
どの世界でも勝ったら拍手、負けたらブーイングというのは起こりうることだとは思うが、この時のブーイングが、負けたからなのか、内容的なものなのか、それとも特定の個人へ対してなのか、それは選手に対してか、もしくは僕なのか。その対象がよく見えなくて、なんとかその話を聞いてみようと思って、僕はスタンドに歩み寄った。
今の湘南ベルマーレは、たくさんのサポーターの人たちにスタジアムへ来てもらうためにクラブが営業や告知活動を熱心にしてくれている。選手たちもコンテンツとして魅力あるプレースタイルを磨きあげてピッチ上で表現することによって、お客さんに喜んでもらえるようにと意識している。そうしてクラブから発信されたことをサポーターの方々に理解してもらって、15,000人入れば満員になるスタジアムで常に10,000人を超える方々に来場してもらっている。湘南に住んでいる人たちの日々の楽しみにもなっていると思うし、我々がJ1でプレーすることでサッカーに対する興味を向けてもらっているとも思っている。
「スタイルが出せていない」という言葉。
試合後に話を戻すと、そういう前提がある中で、サポーターの1人の方から「スタイルが出せていない」という言葉をかけられた。
確かに、昨日の試合で湘南の試合を初めて観る人が「湘南スタイルってこうなんだね」と分かるサッカーができていたかと言われれば、自信はない。ただそこでひとつ説明しなくてはならないと思ったのは、「数的優位を作って勢いをもって攻め込むこと」や「縦に早く攻めること」ばかりが湘南スタイルではないということ。
先日の鹿島戦のように、がっぷり四つで組んでくる相手であればそういった分かりやすいシーンは出るが、相手が警戒をして我々のカウンターの意欲を半減させるような戦い方を選べば、我々はボールを動かしていく戦い方をしなくてはいけない。現に、去年も一昨年もカウンターから奪ったゴールは全体の10%くらいで、あとはセットプレーだったりミドルシュートだったり、ボールを動かしていくなかでの得点だったのだ。
以前から言っていることだが、今はポゼッションもカウンターもできないと勝てない時代になっている。その両方ができることを目指して成長していく、そういうことこそが湘南スタイルであり、表面的なプレー、試合の見てくれだけを整えることが湘南スタイルではない。
そうであると思われていたことが、昨日は少し悲しかっただけだ。