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セナの事故から22年、新たな安全策。
「これがあればアイルトンは……」
posted2016/05/08 10:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
今年のロシアGPは、F1界にとって特別な日だった。それは、アイルトン・セナが天に召された1994年以来、初めて5月1日にレースが行われたからである。
1994年5月1日――イタリア・イモラで開催されたサンマリノGPのレース中に事故死したセナ。当時、F1界のスーパースターだったセナの死が与えた衝撃は想像以上に大きく、世界中が悲しみに包まれた。あれから22年の歳月が流れ、いまのF1は大きく様変わりした。その中のひとつに、安全性の向上がある。
セナが亡くなったその年、当時のFIA会長であるマックス・モズレーは空力やエンジン性能などに関するレギュレーション変更を矢継ぎ早に実施。その中には、平均スピードを落とすために、コース上にタイヤでシケインを作るなど、いま考えるとやや過剰反応とも思えるものもあった。しかしそれは、セナの死がF1界にいかに大きなショックを与えたかを意味する。
翌年にはコクピットの高さが上がるとともに、コクピット内側に頭部を保護するための衝撃吸収材の設置が義務付けられた。さらに2000年代に入ると、HANSデバイスと呼ばれる頭部と頸部を守る新しい試みが導入された。その後、ヘルメットの素材が100%カーボン製となったり、ヘルメットの開口部周辺を保護するためにバイザープロテクターが装着されるなど、さまざまな安全対策をF1界は行ってきた。
新たなコクピット保護装置への反応は微妙だが……。
そのF1界が、セナの死から22年後の2016年、いままでにない新しい分野の安全対策を推し進め始めた。それはコクピットの中にいるドライバー自体を保護するためのコクピット保護装置である。まず3月上旬のスペイン・バルセロナで行われたプレシーズンテストでフェラーリが「ヘイロー」と呼ばれる装置をテスト。そして今回ロシアGPで、レッドブルがエアロスクリーン型のコクピット保護装置を登場させた。
だが、ヘイローにしてもエアロスクリーンにしても、反応はあまり芳しくなかった。その最大の要因は、見た目の悪さである。あるドライバーは「確かに安全性が向上されることは大きなメリットだが、デメリットもある。それはシングルシーターとしてのDNAが損なわれることだ。シングルシーターはオープンコクピットであるべきで、それに乗るためには、ドライバーみな、リスクがあることは認識している」という。