プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人・高橋監督は「甘ちゃん」ではない。
ベンチでの無表情さが、怖くて深い。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/05/03 09:00
今季初の3連敗をヤクルトに喫しても、「勝ったり負けたりはするわけだから」と動じず。
若い投手をなんとか一本立ちさせる我慢強さ。
さらに菅野を軸に右の高木勇人(防御率2.90)、左の田口麗斗投手(同2.61)が先発ローテーションを支えて投手10傑入りしている。チーム防御率2.77と2点台は12球団でも巨人だけである。
ただ、こうした目立った存在とは別に、もう一つ今の巨人投手陣を支えているのが、若い投手の自立だ。
田口もそうだが、1枚足りなかった先発陣の中で左腕の今村信貴投手を何とか一本立ちさせるメドをつけたことも、開幕からの大きな収穫と言えるだろう。この今村の起用を見ると、3月30日のDeNA戦(横浜)での初登板では2回も持たずに降板し、その次の試合では、勝利投手の権利を目前にした5回2死で交代させている。
それでも我慢して起用し続けた結果が、4月24日のDeNA戦(東京ドーム)での今季初白星へと繋がった。
これは中継ぎの田原誠次や公文克彦、戸根千明らも同じで、失敗してもすぐに必ず次の機会を与える。挽回のチャンスを与えることで、若い選手が少しずつ階段を登ってくるという図式である。
もちろん投手陣のマネジメントを任されている尾花高夫コーチの手腕もあるのだが、最終的には指揮官が作った「動きやすい環境」が選手を育てている好例と言えるだろう。
前任の原監督同様、甘ちゃんではなさそうだ。
昨年まで指揮をとった原辰徳前監督は、選手を「信頼」はしたが、決して「信用」はせずに自らの手で管理することで、勝利を追求した野球を行ってきた。その原監督からバトンを受けた高橋監督は、選手を「信頼」して頑固に自分の理想を追い求めることで、まずは絶好のスタートを切ったわけである。
ただ、この監督もまた選手を「信用」しているかといえば、そんな甘ちゃんではないと感じるのは、時折見せるベンチでの表情が変わってきたからだ。
開幕直後には時折、見せていた笑顔が今はほとんど見られない。笑わない、怒らない。決して悔しそうな表情も見せないのは、原監督と同じように選手を「信頼」はしても「信用」はしていないからと察する。
そしてこの無表情さにこそ高橋由伸という男の強さと怖さ、監督としての奥行きを感じるのである。