濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
K-1の会場を満員にする王者・武尊。
“スターになるために”生まれた男。
posted2016/05/01 10:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Susumu Nagao
アリーナの客席スペースから出てすぐのところにあるインタビュースペースで選手のコメントを取りながら試合を見ていたら、リングサイド撮影担当のカメラマンに何度も出くわした。4月24日、K-1・代々木第二体育館大会でのことだ。
「中の熱気が凄くてさ。空気が薄いんだよね。たまに外で深呼吸しないと体がもたないよ」
そう言ってカメラマンが苦笑いするのもうなずける状況だった。この日の観客動員は、主催者発表で超満員札止めの4800人。いわゆる“ギチギチ”である。新生K-1として2014年11月にスタートして以降、着実に人気を高め、最近ではビジョンの真横に位置する“見切れ席”を開放するようになった。
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場内を見渡して印象的なのは、女性や子どものファンも多く見られること。コアな格闘技ファン層の外側にもアピールできている証拠だろう。広報担当のB氏は「時代が変わってきているな、という感じがします」と言う。
「ツイッターなどでの反応を見ていると、選手たちが後楽園ホールの大会『Krush』で積んできたキャリアを知らない方も多いようなんですよ」
意地悪な言い方をすれば“にわかファン”。とはいえ、その存在はジャンルの盛り上がりに不可欠でもある。そもそも、K-1には若い選手が多い。4.24代々木大会、-60kg日本トーナメントで優勝した大雅(かつて“天才少年”と騒がれたHIROYAの弟だ)にいたっては、まだ19歳である。歴史や文脈などを気にせず、自分で“見つけた”選手と現在、そして未来を共有しやすいのだから、新規ファンにとっての間口は広い。
打ち合いから逃げずに「全試合KO」を宣言。
そんな新時代のK-1人気を牽引するのは、「スターになるために」故郷の鳥取から上京してきた24歳、-55kg世界王者の武尊だ。その最大の魅力は、派手で分かりやすいファイトスタイル。「軽量級はKOが少ないからつまらない」という常識に反発し、「全試合KO」を宣言。昨年11月の初防衛戦、大晦日の『RIZIN』と連続KO勝利を収めている。
この日対戦したのは、タイのヨーセンチャイ・ソー.ソーピット。ムエタイの殿堂・ルンピニースタジアムのランカーだったこともある強豪選手だが、武尊は3ラウンド開始早々に3ノックダウンを奪ってみせた。ムエタイ戦士といえば相手の持ち味を封じるテクニックが特徴の1つでもあるから、豪快な暴れっぷりで倒したことは、K-1ルールにヒジ・ヒザがないことを差し引いても見事だったと言える。