マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
捕手のリードは「配球」だけじゃない。
叱り時、捕球音、2秒間止まるミット。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2016/04/14 10:50
木更津総合は、サヨナラで秀岳館に敗れた。捕手・大澤にとっては忘れがたい教訓になったことだろう。
折れそうになった投手の心を奮い立たせる仕事。
ボールが2つ続いている。3球目、さあどこに構えるか。
“内”でなきゃダメだ。
大澤が右打者・中山の足元にもぐった。
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そう、そこだ。さあ、何を投げる?
まっすぐでなきゃダメだ。
クロスファイアーだ!
カウントを取りにくる甘いボールを振る! と決めて待っていた中山。気負いもあっただろう。一瞬バットの振り出しが遅れ、センターに飛んだ打球は定位置を越せなかった。
これがリードだ。
ベストボールを捉えられ、折れそうになっている投手の心を察し、ここぞ! ときびしく叱り、体の近くにストレートを要求して、萎えかけた投手の勇気を再び奮い立たせる。
中山にも痛打を浴びれば、走者2人を置いてクリーンアップにまわっていたこの回。
大阪桐蔭打線は、こういう場面で日本一の勝負根性を発揮する。ここまで守ってきた3点差ぐらい、一気にひっくり返されていてもおかしくはなかった。
渾身のベストボールをボールと判定され……。
ならば、ここはどうだったんだ。
そう尋ねたくなるような場面が、木更津総合の次戦にあった。
準々決勝、木更津総合が秀岳館に敗れた試合。木更津総合が1-0でリードした最終回、9回だ。
アウトはすでに2つ。四球の走者が一塁と二塁にいた。一打同点、いや、逆転サヨナラまである場面だ。
フルカウントから5番・天本昂佑左翼手のヒザ元に投じた、やはりクロスファイアー。
見ていたこっちがうわっ! と思わず声をあげてしまうような、凄まじいボールだった。
なのに、主審の右腕が上がらない。
球場じゅうが唸るほどの、渾身のベストボールだった。
「あんまりボールが良過ぎると、ストライクって言えないことがあるんだよなぁ……」
以前、ある現役のアンパイアがぽろっとこぼしてくれた一つの“本音”。それを思い出していた。