リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
「彼が創造したのは“流派”そのもの」
クライフの合理性、ユーモア、天才。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2016/04/07 10:40
追悼セレモニーのカンプ・ノウには「ありがとう、ヨハン」の文字が掲げられた。あまりに大きすぎる存在には、感謝こそが相応しい。
ストライカーではなく、DFとMFに外国人枠を使う。
たとえば当時1チームに許されていた外国人選手は2人。どこも普通はゴールゲッターを探してくる。なのに――。
「ヨハンはまず、“デブ”まであと一歩ながら、素晴らしいキックを持ったクーマンというディフェンダーを買い取った。クライフによると、ゴールはパスを繋ぐことで生まれ、パスは自陣から繋いでいかねばならないからだ」
次に獲得したのはラウドルップ。
「イタリアの戦術重視のサッカーにはまらなかった彼もまた、自陣から敵ゴールまでの中継点だった」
クライフはピッチを碁盤の目のように区切り、各ポジションに番号を付けて役割を定義した。加えて、全ての基本となるパス廻しに正確さとスピードを与えるためにはどれほどのスペースが必要かを明確にし、碁盤の中心にはクライフの本能的発想を掴んで方法化することができるグアルディオラを置いた。
「ヨハンを理解するのは易しいことではなかった。彼自身認めているとおり、言語に長けていたわけではない上、天才らしく、しばしば説明に論理を欠いていたからだ」
マークを外すのが巧い選手には、最初から付けない?
とはいえ、クライフのアイデアの根本にあるのは常に合理性である。
これは有名なエピソードだが、常人離れぶりが面白いので挙げておこう。
マークを外すのが非常に巧いFWマノロを擁するアトレティコ・マドリーと対戦したときのこと。試合前のミーティングでクライフが用意した作戦盤を見た選手たちは、マノロにマークが付いていないことに首を傾げた。
するとクライフ。
「マノロの最大の武器は?」
マークを外すことだと選手が声を揃えると、
「ならば、最初からマークを付けなきゃいいじゃないか」
クライフはどんなときもチームのボスであり、規律に厳格だった。トップチームに上がったばかりのグアルディオラがファッションショーでモデルを務めたときは、Bチームに戻して戒めた。
ドリームチームのスター選手が揃ってテレビ番組に出演したときは「二度と出るな」と叱りつけた。
「まだ出演契約が残っている」と選手たちが容赦を求めると、「ならば、あの番組は次回から“控え組”総出演になるな」と返した。