プレミアリーグの時間BACK NUMBER
誰もが口にする「ハードワーカー」。
岡崎慎司と「ストライカー」の距離。
posted2016/04/07 10:30
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
AFLO
「凄さが感じられないところが凄い!」
これは4月3日のレスター対サウサンプトン戦(1-0)後、岡崎慎司の凄さを尋ねられた吉田麻也の開口一番。もちろん日本人同士ならではのジョークだが、言い得て妙なコメントでもある。
まさかのプレミアリーグ優勝へと躍進するレスターの攻撃陣では、リーグ得点王候補のジェイミー・バーディーと、プレミア年間最優秀選手候補のリヤド・マフレズが毎週のように脚光を浴びてきた。岡崎はというと、普段は両者の陰に隠れながらも、チームの前線に欠かせない存在として、プレミア優勝争いのピッチに立ち続けているのだ。後半戦でのリーグ戦先発は、ホームにサウサンプトンを迎えた32節で12試合連続となった。
レスターの闘いぶりをボクシングに例えれば、電光石火のストレートを放つバーディーと一撃必殺のアッパーで勝負を決めるマフレズに対して、岡崎は、休まずにガードの上からでもジャブを打ち続けるファイターといったところだろう。プレミア1年目にしてレギュラーの座を奪い得た理由は「ハードワーク」の一言。移籍当初は懐疑的な部分もあった世間の見方を変えさせたのも、チームのために汗を流す献身的な姿勢だ。
11億円の価値はないと言われていた昨夏。
タフなプレミアのピッチは、これまで日本人アタッカーには成功例のない世界だった。マインツから移籍した昨夏には、「レスターが支払った移籍金700万ポンド(約11億円)の価値はない」とするドイツのメディア評が、ドーバー海峡の向こうから伝えられもした。しかし、岡崎の持ち味の1つである攻守のハードワークは、イングランド国民の目にも留った。試合を重ねるごとに、バーディーやマフレズの得点シーンに、体を張ったキープや相手DFの注意を引きつけるランで絡む岡崎のプレーに、アラン・シアラーやイアン・ライトといった元FWのテレビ解説者が言及するようになっていった。
そもそも新監督のクラウディオ・ラニエリが、自身の就任前に加入していた日本人FWを好んで使うようになったのも、チェイシングやプレスバックに精力的に走る岡崎が、元来は堅守を好み、個人の自己表現よりも集団としての大同団結を重んじる指揮官の志向に適していたからに違いない。