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氷の読み、正確性、第1エンド後攻。
世界銀のカーリング女子は黄金時代。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2016/03/30 10:30
決勝の最終ショットを悔やんだ藤澤五月だが、彼女の存在なしにここまでの成績は決して実現できなかっただろう。
読みは、ショットの正確性によってさらに機能する。
この試合は、私にとって衝撃的だった。
経験、技術、パワーで優位と見られたスコットランドを完膚なきまでに叩き、彼女たちのプレーオフの芽を摘んだからだ。
そしてその日、開催国・カナダもコンシードに追い込んだ日本は、「ホンモノ」だった。
アイス・リーディングを効果的に利用するためにはショットの正確性が重要だが、グループステージでの日本が放ったショットのパーセンテージは87%で、12カ国中トップだった。かつて、これだけの正確性を誇った代表チームはなかった。アイスとの相性が本当に良かったのだと思う。
では、ポジションごとのランキングを見てみよう。
リード 吉田夕梨花 85% 7位
セカンド 鈴木夕湖 87% 2位
サード 吉田知那美 90% 1位
スキップ 藤澤五月 86% 1位
リードの吉田、セカンドの鈴木は大会終盤になって正確性を増し、「布石」の段階で日本は優位に試合を運び、そしてサード、スキップで相手を仕留めたのである。
日本はグループステージ11試合、プレーオフで3試合を戦ったが、カーリングは寒い環境で試合をしなければならず、体調管理が難しい。そのなかで、安定したショットを見せたのは素晴らしい。
決勝でもラストロックを持っていれば結果は……。
そして第1エンドでラストロックを持っている時の強さについても触れておきたい。カーリングでは最後に石を投げる方が圧倒的に有利だが(自分のストーンがなく、相手がどれだけハウス内に石を溜めていても、最後にど真ん中に投げれば後攻のチームが1点を取れる)、日本がラストロックを持って試合をスタートした試合は、8戦全勝だった。
これは、どういうことか。
試合の序盤、スコットランドやカナダ戦のように日本が先行するケースが多く、主導権を握ると滅法強いのである。
その意味で、藤澤は盤石のスキップだったと言える。
不運なことに、決勝のスイス相手には3戦してすべて第1エンドでラストロックを持たれてしまった。
もしも、日本がラストロックを持っていたら、試合展開はまったく違っていたに違いない。