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なぜ岡崎へのスルーパスは少ないか。
日本最強FWの「一度引く」という技。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byAsami Enomoto
posted2016/03/25 18:00
ボールタッチでDFを2人置き去りにした岡崎慎司の1点目。彼の技術、スタイルの止まらない進化には代表戦のたびに驚かされる。
高さも強さもないなら、一度引いてみる。
積極果敢にゴールに向かうことが最大の特長のバーディー。この試合で岡崎がコンビを組んだ金崎も、大分時代のトップ下や名古屋時代のウイング然としたプレースタイルではなく、現在鹿島では前線を動き回りながらゴールへと推進する。
そんな相棒たちのプレーを横目で見ながら、岡崎は考えた。
同じ動きをしても、意味がない。むしろ一度引いたところからゴール前に向かって勝負することで結果を出している選手を、プレミアの舞台で目にしている。そこに、ヒントがあることに気づいたのだ。
昨年10月、イギリスで岡崎をインタビューした際、こんなことを話していた。
「新たな武器を見つけるために、ドイツからイングランドに来た。ブンデスリーガでは最後は体のいなし方で前線で相手に対抗できたけど、それを体得するまでに約4年かかった。ただ、これ以上のハイレベルなサッカーで最前線でプレーするには、今の自分には限界がある。高さも体の強さもない自分が世界でFWとして戦うために、ここからはさらに違う境地で何かを見出さないといけない」
レスターというチーム内での自分自身の立ち位置にも、そしてプレミアでのプレーにもまだまだ迷いが見られた。岡崎はあれからの約半年で、ある一つのスタンスを見つけ出した。
それこそが、FWとして、一度“あえて引いてみる”というプレースタイルだった。
前のめりな心理状態の上に、押し引きを添えて。
岡崎は、代表でも2トップの布陣が今後のオプションになると語る。
「今までの2トップだったら、例えばロングボールを入れて2人で同じエリアに入っていってという感じになった。でも点を取りたいからといって、焦って前ばかりに行っても点は取れない。それを自分はだいぶ理解できてきた」
何事にも強弱や緩急といった、押し引きの重要性は存在する。FWは常にゴールを奪いに行く前のめりなプレーと心理状態が理想だと認識されているが、ある意味それは必要最低限の要素。むしろ岡崎は元来そうした特長を保持していたからこそ、その上に押し引きの工夫を身につけることで、もっと“したたか”にゴールを奪えるようになっていくかもしれない。