猛牛のささやきBACK NUMBER
豪快なスイングと、細やかな分析力。
オリ・吉田正尚の魅力的な「二面性」。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/25 10:30
小さい体を目一杯に使ったフルスイングは観る者に夢を見せる要素に溢れている。
「技術をやる前に、スイングの力がついていないと」
吉田の魅力はやはり、全身を余すところなく使ったスイングだが、その土台は、小学生時代に作られたものだと言う。
「僕思うんですけど、上に行って技術をやる前に、スイングの力がまずついていないと意味がないんじゃないでしょうか。細かい技術を身につけるにも、やっぱり振る体力が必要なので。そういう意味では、ちっちゃい頃にガムシャラに振っていたのがよかったのかなと思います」
小学校1年生の時に野球を始めた吉田は、毎日素振りを欠かさなかった。回数を決めてやるのではなく、一振り一振り時間をかけて、投手やコースをイメージしながら振った。
「回数を決めてやると、ただ回数をこなすだけになりがちなので、決めずにやりました。だから自分が納得したら早く終わったし、長い時もありました。嫌々やっても続かない。よく、お父さんが熱血で小さい頃からやらされている子もいると思うんですけど、そうするとなかなか自分から進んでやらなくなるんじゃないでしょうか」
野球経験のない親が、黙って支えてくれた。
吉田の父は野球経験がなく、「だからよかったのかもしれない」と言う。
「ああしろこうしろと言われなかったから、自分で考える力もついたし、小さくならず、力強く振れるようになったんじゃないかと思います」
野球経験はなくとも、両親は黙って野球に打ち込む吉田を支えてくれた。バッティングセンターに行きたいと言えば週に2、3回連れていってくれ、いつも10ゲームほど打ち込んだ。
「嫌な顔をせず連れていってくれました。今考えると大変だったと思いますけどね。仕事が終わってからだから」
ガレージには、ティー打撃用のネットまで設置してくれたという。
小学生時代に築いたスイングの土台と、自分で考えながら振る習慣。それは今の、1球ごとの修正能力につながっている。
豪快なスイングに目を奪われるが、ただやみくもに振り回しているわけでは決してない。吉田は試合後、1球1球にその都度どう考えて向かい、打球を見て自分でどう分析したかなどを、こと細かに語ってくれる。