猛牛のささやきBACK NUMBER
豪快なスイングと、細やかな分析力。
オリ・吉田正尚の魅力的な「二面性」。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/25 10:30
小さい体を目一杯に使ったフルスイングは観る者に夢を見せる要素に溢れている。
「いいとこ見せよう、というのが少なからずあった」
2月後半には、ロングティーで柵越えを連発するまでに回復していたが、浮かない表情でこう話していた。
「まだ8割ぐらいでやっています。ちょっと神経質になっていますね。今までなかったところを痛めたので、不安だし、怖さはある。自分に厳しくやるのはいいけど、オーバーワークになると怪我につながるので、考えてやらないと。(一軍に上がった時には)いいとこ見せよう、というのが少なからずあったかもしれません」
はやる気持ちを抑え、トレーナーと相談しながら慎重に調整を続け、3月11日、ようやくファームの教育リーグで初の実戦出場を果たした。するとその第2打席で、それまでの鬱憤をぶつけるかのような痛烈な二塁打を放つ。
藤川球児の内角速球を、5階席まで運ぶホームラン。
福良監督は、一度直に見てみたいと、3月19、20日の2日間限定で吉田を一軍に呼んだ。
しかし初日の一打が指揮官の気持ちを揺さぶり、2日間の予定は3日間に延長された。
そして2日目、3月20日の第2打席では、阪神先発・藤川球児の内角速球を目の覚めるようなフルスイングで一閃。打球は5階席前の壁を直撃する特大の本塁打となった。これには藤川も思わず苦笑した。
「藤川さんは誰もが知っている、メジャーも経験されたピッチャー。その投手の、たぶん自信を持たれているまっすぐを打てたので、自信になります。自分の中で、心に残る1本になりました」
吉田は静かに喜びを噛みしめた。
身長173cmという小柄な体で、大学日本代表の4番を務め、プロの投手の球も軽々とスタンドに運ぶことができるのはなぜか。
「自分は大きい体でやったことがないんで、なんとも言えませんけど(笑)。ただスイングスピードを上げて、ムダな力をはぶいて、インパクトの瞬間に全部の力を預ける、ということですね」