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昨年の補強が、遂に本物の戦力へ。
ACL広州戦に引分けた浦和の進化。
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph byGetty Images
posted2016/03/17 11:35
パウリーニョ、マルチネス、グラルらの個人能力は圧倒的だが、浦和は戦術をもってその広州恒大と互角に渡り合った。
浦和のゴールには、哲学が如実に表れている。
一方で浦和の得点もまた、現在のチームの特徴が大いに現れたものだった。最終ラインから丁寧にボールをつなぎ、左サイドから攻撃参加したDF槙野智章がクロスを上げる。これをFWズラタンが丁寧に落とし、興梠が地を這うような強烈な一撃でゴールを射抜いた。この時、ペナルティーエリア内にはズラタンと興梠以外にも2人の選手が入り込んでいた。それこそ7人、8人と人数をかけて奪い取った1点には、浦和がどのようにゴールを生み出すチームに舵を切ったかが、如実に表れている。
質は高くとも、独力で決定的な違いを生み出すまでには至らない選手たちがゴールを生み出すには、高い連動性が不可欠だ。誰かから誰かへのパスという2人の関係ではなく、3人、4人と有機的に絡んでいく関係性がなくてはならない。だからこそ、浦和は後方からボールを丁寧につなぎ、チーム全体で攻撃の波を作り出そうとする。そして、その連動性を築き上げるには、時間という要素が必要不可欠だ。
特に、“ミシャサッカー”はビルドアップの段階から含めて“複雑”なサッカーであると評判だ。実際に加入した選手の声も、その事実を証明している。ペトロヴィッチ監督がかつて指揮を執ったサンフレッチェ広島からの移籍選手であれば、その融合はスムーズだと思われるかもしれない。しかし、昨季広島から加入したFW石原直樹に聞くと、それとは違う言葉が返ってきた。
「簡単だと思われるかもしれないですけど、立ち位置が似ているだけに難しいんですよ。もしかしたら、全く経験のない選手の方が入りやすいのかもしれないですね。広島の攻撃と浦和の攻撃は、似ているけど違う。だから同じような場面でも、体が反応したプレーが浦和では合わないということが少なからずあるんです」
昨季の補強選手が、本物の戦力になった今季への期待。
昨季の浦和は、石原を含め武藤、ズラタンなど多くの選手を補強した。だからこそ昨季のACLには大きな期待が掛かったはずだ。しかし現実は、過去ワーストとも言える成績だった。その一因には、“時間不足”という要素があることはいなめない。石原でさえそうなのだから、フィットするのに時間がかかる選手が多いのは当然だ。昨年2月の最終キャンプ終了後に、ペトロヴィッチ監督が「あともう少し時間があれば」と話していたのは印象深い。
ペトロヴィッチ監督の指揮下にある浦和は、補強の成果が発揮されるのに他のチームより時間を要するのだ。シーズン開幕前に獲得した選手が本当の意味で戦力になるのは、夏が近づいてくるころだ。そしてそのころには、ACLのグループステージは終了してしまっている。
この日の劇的な同点弾も、昨季加入のズラタンと興梠や槙野がイメージを共有できていたからこそのゴールだった。求めていたものが発揮されたのは1年越しになったかもしれない。しかし、昨季に補強した選手たちが本物の戦力となって臨む今季には、これまで以上の期待をしても良いのではないだろうか。