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昨年の補強が、遂に本物の戦力へ。
ACL広州戦に引分けた浦和の進化。
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph byGetty Images
posted2016/03/17 11:35
パウリーニョ、マルチネス、グラルらの個人能力は圧倒的だが、浦和は戦術をもってその広州恒大と互角に渡り合った。
強烈な「個」に頼れないならば、連動性で。
浦和がアジアを制してからすでに約10年がたち、日本サッカーやJリーグを取り巻く状況は大きく変わった。日本人選手の海外移籍へのハードルは大きく下がり、Jリーグで違いを生み出せるレベルの選手は次々と海を渡っている。浦和で言えば、下部組織から育て上げた原口元気がヘルタ・ベルリンに移籍した。原口が浦和に残っていれば、Jリーグのみならず、ACLでも有数のアタッカーになっただろう。だが、そのレベルの選手はなかなかJリーグに留まらなくなってきているのだ。
また、トップレベルの外国人選手から見たJリーグの移籍先としての優先順位は、下がりこそすれ上がってはいない。かつてはレオナルド(鹿島)などの現役ブラジル代表選手がJリーグでプレーしたが、今となってはかなり難しい。
環境や状況が変われば、自分たちも変わらざるを得ない。決定的な違いを生み出すアタッカーの獲得が難しくなった浦和が選択したのは、高い連動性を武器に、攻撃に人数とリスクを掛けるサッカーへの転換だった。ペトロヴィッチ監督が就任してから5年目になるが、その方針は変わっていない。
広州の得点は、ほぼ2人だけで決めたもの。
今回の広州戦、双方の2得点のうち1得点ずつはセットプレーによるものだった。だが、流れの中から決まった1得点ずつには、そうした構造と背景が大きく映し出されている。
浦和の失点は、スローインを受けた広州のFWマルティネスが浦和の右サイドを突破し、ラストパスを受けたFWグラルが決めたものだった。この時、広州の攻撃陣でペナルティーエリア内に侵入していたのは3人。それもマルティネスを含めてだから、パスの受け手として存在したのはわずかに2人である。対して浦和はGKの西川周作を含めれば8人がペナルティーエリア内で守ろうとしていた。それでも、最終的にはマルティネスの爆発的な突破からグラルへのパスだけで決められたのだ。グラルも難しいボールを鮮やかにトラップし、距離を詰めたGK西川の動きを見極めて冷静に決めている。
ここで、人数をかけた浦和守備陣のプレーについて論ずるつもりはない。要点は、目の前に立ちはだかる大量の守備陣を、強力外国人2人で突破したという事実だ。「ここさえ抑えれば」という場面だが、簡単に抑えられないからこそ、大きな金額に値する選手だということでもある。浦和を応援する者にとっては歯噛みするような場面だが、かつての浦和も強力外国人アタッカーが同じような思いを他クラブにさせてきたのである。