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元魁皇・浅香山親方に聞く。
琴奨菊の初優勝と、これから。 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byJMPA

posted2016/03/08 12:00

元魁皇・浅香山親方に聞く。琴奨菊の初優勝と、これから。<Number Web> photograph by JMPA

初場所千秋楽、琴奨菊(左)と豪栄道(右)の一番。琴奨菊の躍進から周りも発奮すべしと浅香山親方は言う。

土俵外でのあれこれをも乗り越えるという強さ。

 俺の場合は、優勝したあとはすごく忙しくて、体調管理ができなかったんです。カド番を13回も経験したけれど、カド番の場所前は周囲も静かで取材攻勢も行事もないから、治療とトレーニング、稽古、相撲に全部の時間を使えた。その結果、万全の状態で翌場所に臨め、優勝できる。でも、優勝すると、またそこで忙しくなって体調管理ができずに、またカド番に――。これを繰り返すことになってしまいました。もちろん、俺はそこまでの実力でしかなかったんだと思います。だから、土俵外でのあれこれをも乗り越えて、次の場所を勝つ――というのが、本当の強さでもあるんですよ。

 今回の琴奨菊の初優勝は、今までいろいろな優勝力士を見てきたけれど、やはりほかとはまた違う。とても嬉しかったんですよね。それは同郷の後輩だからというのではなく、5度のカド番を乗り越えてケガを克服し、変わった姿を「見せつけてくれた」という意味でもある。

 ただ、今の相撲界は、横綱大関でなくとも、誰が優勝してもおかしくないくらいのチャンスがある時期なんです。白鵬はまだ衰えてはいないと見ていますが、それまで常にトップを走ってきていて、いつも気を張っていた。でも、先場所はちょっと不覚を取って負け、それで気が抜けてしまうのか、あっけないほどに崩れてもしまう面があるのもわかりましたよね。

琴奨菊の優勝で発奮を。

 先場所、唯一、琴奨菊に土を付けた豊ノ島も(※13日目に、全勝の琴奨菊と直接対決。自身も千秋楽まで優勝戦線に残る)、ライバルとして優勝一歩手前まで来て、自分もチャンスがあったなか、先を越された。この豊ノ島も「自分もこれから優勝の可能性がある」と思っているだろうし、嘉風や安美錦などのベテラン勢の存在も侮れません。今、古株の関取に引導を渡して引退に追い込むような、勢いある若手力士がいないこともあるんですよね。

 稀勢の里も、今回の琴奨菊の優勝で発奮するだろうし、豪栄道だって、次はご当地の大阪場所だし、気合いは入るでしょう。いや、発奮しなきゃいけないですよ。

 だから、次の場所の琴奨菊にしてみると、周りの包囲網は今まで以上に厳しくなるかもしれないとも言えるんです。

 綱取り場所をプレッシャーにせずに――と言っても、やはりなってしまうもの。でも、琴奨菊には、「この優勝までに自分が何をやってきて、どんな経験をしてきて、ここにたどり着いたのか」ということを忘れないでほしい。その今までの気持ちを確かに持ち続けて忘れることがなければ、「きっと大丈夫なのでは」とも思っているんですよ。

「荒れる春場所」といわれる3月の大阪場所だ。浪花の地で開花し、満開となる桜の花。元ベテラン大関のこの言葉は、春風に乗り、つぼみの膨らんだ琴奨菊の元に届くのだろうか。

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