相撲春秋BACK NUMBER
イケメン力士のストイックな素顔。
遠藤、いまは徹底的な治療の時を。
posted2016/02/09 11:50
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
2016年1月。にぎわう渋谷のスクランブル交差点に、ひときわ目立つ巨大な看板が掲げられていた。ピンクの着物姿の遠藤が微笑むそれは、永谷園の販促キャンペーン「遠藤関だっこちゃんプレゼント」の広告看板だった。
初場所の遠藤の取組では、その懸賞旗が土俵をぐるりと囲み、宣伝アナウンスの声に館内から嬌声が上がる。しかし、期待をよそにあっさりと押し出され、突き倒されてしまう遠藤。そのたびにファンの歓声が、大きなどよめきとため息に変わる。懸賞金の束を手にした相手力士は、意気揚々と花道を引き上げて行くのだった。
ひとつの白星を挙げただけで、七日目、やっと遠藤は休場を決めた。師匠の追手風親方(元大翔山)は、「本人はもうちょっとどうにかなるかと思って出場を決めたんだろうけど、相撲にならないからね。本人も納得しての休場です。昔、遠藤に『お前は本当に“強気”の“負けず嫌い”だなぁ』と言って笑ったことがあったんですけどね。今回はさすがに『“負けず嫌い”という言葉は、勝つからこそなんだ。負けちゃったら“嫌い”も何も、その意味がないんだよ』とね――」。
後輩たちが口々に語る遠藤のストイックさ。
遠藤は、母校日大のスクールカラーでもあるピンク色を好み、また、それが色白の肌に映える。四股名が染め抜かれたショッキングピンクの着流しを身にまとい、場所入りするその姿には、誰もが見惚れるほどだ。一見して、“色男”“チャラ男”のイメージを持たれることもあろうが、実際の遠藤は、その対極にある男でもある。
日大の後輩にあたる力士たちは、遠藤の真面目さ、ストイックさを口々に証言する。
「主要な大会が終わると、練習もそこそこになる。『今日はどこに遊びに行く?』なんて相談していても、遠藤先輩だけは違いました。いつもひとりで黙々とトレーニングしていましたから」
振り返れば、'15年3月の大阪場所5日目のこと。左膝前十字靱帯断裂と半月板損傷の深手を負い、遠藤は休場を余儀なくされた。この当時、自身も同じ経験がある妙義龍が、感嘆していたものだった。