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奪三振率と与四球率がキーレコード。
前年の成績でブレーク投手がわかる。 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byNanae Suzuki

posted2016/02/20 10:30

奪三振率と与四球率がキーレコード。前年の成績でブレーク投手がわかる。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

今よりも一回り細かった1年目の藤浪晋太郎。2000年以降、高卒新人の10勝は田中将大と2人しか達成していない。

高校卒の戦力化はパ・リーグが得意?

 では、即戦力となることが期待されていない高校卒はどうだろう。涌井秀章(ロッテ)は西武時代の'05年に55.1回投げて1勝6敗、吉川光夫(日本ハム)は'07年に93.1回投げて4勝3敗、唐川侑己(ロッテ)は'08年に81.2回投げて5勝4敗、松井裕樹(楽天)は'14年に27試合、116回を投げて4勝8敗の成績を挙げ、高橋光成(西武)は昨年、8試合、44回を投げて5勝2敗の好成績を挙げている。これらも新人時代の一軍での話である。

 目をセ・リーグに転じると、前田健太(今季からドジャース)は広島時代の'08年に109.2回投げてこれがプロ2年目、西村健太朗(巨人)はプロ3年目が初の40回越えで、山口俊(DeNA)はプロ4年目、昨年の若松駿太(中日)はプロ3年目でのプチブレークである。

 他にいないか調べたが、セ・リーグでは高校卒投手が新人年に40回を超えたのはここしばらく藤浪以外にいない。高校卒を過保護にするセ・リーグの中でも、高校卒を起用することが少ない阪神で1年目から137.2回投げて10勝している藤浪は、本当に凄い投手なのだ。そして、高校卒を戦力にしきれないセ・リーグ各球団の即戦力頼みの体質は確実にパ・リーグに後れを取る原因になっていると言っていい。

与四球率と奪三振率、という2つの数字。

 さて、プロ入り2年目以降にプチブレークし、その後高みに駆け上がった投手の、一流になるまでのプロセスはどうだろう。初めて一軍で40回以上投げた前年、彼らはファームでどのような成績を挙げていたのだろうか。打者の「長打率4割超え」同様のキーレコードはあったのだろうか。私が注目したのは与四球率(1試合完投したらいくつ四球を出すか)と奪三振率(1試合完投したらいくつ三振を取るか)である。昨年限りで球界を引退した山本昌(中日)と大ベテラン・三浦大輔(DeNA)を例にして考えてみたい。

山本昌(日大藤沢高→中日'83年ドラフト5位)
'87年(二軍)6試合、18回、 0勝1敗、防御率4.50、与四死球率2.00、奪三振率5.50
'88年(一軍)8試合、48.2回、5勝0敗、防御率0.55

三浦大輔(高田商→DeNA'91年ドラフト6位)
'92年(二軍)21試合、74回、 6勝6敗、防御率5.23、与四死球率3.65、奪三振率6.45
'93年(一軍)15試合、60.1回、3勝3敗、防御率3.43

 ともに高校卒のドラフト下位指名で、三浦はプロ2年目、山本は5年目で初めて40回をクリアした。2人の記録で差があるのが、二軍での奪三振率。約1ポイントも山本は三浦を下回っている。山本は最初中日では芽が出ず、野球留学したアメリカのマイナーリーグで“運命のボール”スクリューに出会って一流への道を歩み出した。その真骨頂はバットの芯を外して凡打に打ち取ることで、奪三振率が低いのは納得できる。しかし、こういう山本のようなタイプは非常に少ない。

【次ページ】 軒並み奪三振率が高い、一流投手たち。

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