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U-23、忍耐の90分と躍動の延長戦。
8強の壁を打ち破った「割り切る力」。
posted2016/01/23 18:00
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
Takuya Sugiyama
まだ、何も手にしていない。
だが、とてつもなく大きな1勝である。
リオ五輪アジア最終予選に臨んでいるU-23日本代表が準々決勝を突破し、ベスト4へ進出した。
キックオフ直後の2分、日本はいきなり危機に直面する。最前線のモタハリに抜け出され、フリーでシュートを許してしまうのだ。GK櫛引政敏が弾き出したが、厳しい戦いを予感させる幕開けだった。
実際に前半は、チャンスを作り出せなかった。流れのなかから崩し切れず、CKやFKも生かし切れない。37分にはペナルティエリア内でモタハリをフリーにしてしまうが、シュートミスに救われた。ロングフィードを足がかりにフィジカルの優位性をぶつけてくるイランに、日本はチャンスのきっかけさえ見いだせないのである。ピッチ上の現象だけで前半を採点するなら、より多くの支持を集めたのはイランだっただろう。
後半の立ち上がりも、試合の流れを修正できない。56分にはゴール前の制空権を譲り、モハマディのヘディングシュートがバーを叩く。
準々決勝の障壁に挑むための「割り切り」。
手倉森誠監督が率いるチームにとって、準々決勝は大きな障壁である。2014年のU-22アジア選手権で、同年のアジア大会で、U-20W杯のアジア予選で、すべてベスト8敗退に終わってきた。イランにも2012年のU-20W杯予選で、0対2の敗戦を喫している。準々決勝で勝ったことのない歴史が、混乱を誘いかねない状況だったと言ってもいい。
ここでチームを支えたのが、手倉森監督がチームに植え付けてきた「割り切り」である。「自分たちが取れない展開では、相手にも取らせない。押し込まれる展開も覚悟するんだ」という指揮官の指示を、選手たちは身体に刻んできた。
相手の攻撃を受け止め、跳ね返していく忍耐力は、グループステージを経て堅固な岩のようになっている。後半も決定機は作り出せなかったが、56分以降はイランにも与えなかった。時間の経過とともに相手の運動量が落ちるとの想定が狂っても、精神的に焦れることはないのである。