ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹がパター不振を抜ける日は。
「僕は、しんどいことが多分好き」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2015/12/17 10:30
12月15日時点で、ショット貢献度5位に対して、パット貢献度は164位。松山のステップアップがパットにかかっているのは間違いない。
「こうなっているから外れる」という根拠を。
そこは結局、誰にも理解できない領域だと彼は言う。
「例えば“イップス”の人って、いるじゃないですか」
普段は何気なく行えるはずの動作が、精神的な外圧によって妨げられる運動障害。ゴルフのパッティングはイップスを説明する際の最たる例だ。わずか数十cmの容易いパットが、緊張状態では立て続けに入らない、手が動かない、といった様々な症例がある。
「周りから見たら『普通に打てているのに』って言われるイップスの人は多いんです。結局それぞれの人が、他人には分からない悩みを抱えている。周りがどう評価するか、ということよりも『自分がどうあるべきか』ということが、特にパットには大事だと思う。(イップスでなくとも)自分のフィーリングは人には分からない」
周りの評価という点でいえば、ラウンドにおける様々な部門別のスタッツは客観的な指標だ。松山の場合、昨季はとりわけ1ホール当たりで3パットする確率が3.11%で、全体104位と低迷した。
だが、そういった平面的、ある意味では雑な評価とは松山は一線を引いている。
「『外れるからこうなっている』ではなくて、『こうなっているから外れる』という“根拠”を見つけたい。それが見つかれば、自信が持てる。自信が持てれば、入る」
悩みの尽きないシーズンを送りながらも、松山には時折そのフィーリングとイメージがマッチする瞬間が何度かあったという。
「これ入るよ」とキャディに耳打ちした試合。
宮崎でのダンロップフェニックス最終日。18番でのイーグルを呼んだ2打目のスーパーショットがフォーカスされたが、松山には11番ホールの記憶も鮮明だ。10mを残したバーディパット。松山はアドレスに入る直前、進藤大典キャディに「これ入るよ」と耳打ちした。ボールは理想的な転がりを見せ、カップに消えた。「オレ、12番も『また入りそうだよ』って言ったんです。ダメでしたけど。そう思える時がやっぱりある」
同大会で練習ラウンドをともにした中嶋常幸も、松山の思いに共鳴するようにこう言っていた。
「パターが入らなかった原因は? といわれても、僕らトッププロが見ても、本当に小さな部分、彼自身の内面の問題点は分からない。偉そうに言えないんだ。悩むことは大事。ネガティブに考えるのはダメだけれど、悩みながらポジティブに行く必要がある」