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「慕われる監督」では行き詰まる!?
高橋由伸よ、絶対権力者を目指せ。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2015/12/12 10:50
トークショーは和やかだったが、監督についての理想論は激しい火花を散らしていた。
選手を「殴る練習」をした星野流監督術。
星野副会長は37歳で現役を引退して、2年間の評論家生活の後に、中日の監督に就任した。評論家時代には指導者としての道を学ぶために、元巨人の川上哲治さんに師事。鉄の管理学と言われた徹底した選手管理でV9を達成した川上流の薫陶を受け、監督就任が決まるとスパルタ式でのチーム運営を明言した。
「オレは選手を殴る。ただ、きちっと殴れないと選手にケガをさせることになるから殴る練習をしなければならない」
こう語って就任後に最初に買ったのがサンドバックだったという。それを自宅の車庫に吊るして選手を殴る練習をしたというエピソードは今でも語り草だ。
それだけに、監督とは選手と一線を画した絶対権力者でなければならない、というのが持論だったわけだ。楽天監督時代には年齢的なこともあり周囲から「丸くなった」と言われたが、それでも妥協することのないチーム運営で、起用では選手に一切、意見を聞くこともないし、気を使うこともないという鉄則があった。選手は監督に絶対服従という原則が根元にあったわけである。
「この監督に逆らったら、使ってもらえない」
その恐怖でチームを統制してきたのが、星野流の監督術でもあるわけだ。
監督は、選手と線を引かなければならない。
そこで話はトークショーに戻る。
司会者から「選手の個性を出すためには?」と質問された高橋監督が理想をこう語った。
「私自身、若いですし、なんでもかんでも押しつける時代ではない。意思を尊重しながら個性を出していくのが、今の選手にあっている」
その言葉に即座に反応した星野副会長は、こんな言葉を高橋監督に投げかけたわけである。
「若い人の言うことを聞いてやって、なんてことをやると……失敗します」
祝賀会終了後にはこの言葉の意図をこう説明した。
「今は昔と時代は違うが、基本は変わらないということ。仲間だったら許せたり、自分もヘマをするんじゃないかと思ったことでも、(監督という立場だと)言わなきゃいけない。線は引かなきゃいけないんだ」
要は選手同士であれば許せることでも、監督という立場になったら看過してはいけない。そのためには選手がどう思おうと、言うべきことはきちっと言い切ることが必要だということである。