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[平成18年第82回大会優勝] 亜細亜大学「駒沢大学5連覇を阻んだ“雑草魂”」
posted2015/12/17 07:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
PHOTO KISHIMOTO
2006年の元旦、岡田正裕は選手たちに向かって力強く訴えた。
「おまえたち、今年は優勝を狙うぞ!」
亜細亜大学の監督に就任して7年、初めて口にする言葉だった。6位狙いを公言していた岡田は、朝練に励む部員たちの表情を見た瞬間、これは勝てそうだぞと直感したのだ。
「監督、やりましょう!」
「優勝しましょう!」
これが映画なら、部員たちの拳が一斉に突き上げられただろう。だが現実は、違った。
岡田監督が苦笑交じりに振り返る。
「部員の多くは『え? 優勝?』なんて顔を見合わせていたよ。1区を走った主将の木許(史博)、2区の板倉(克宜)は『やりましょう!』と言ったけど、その2人が実際は大きく出遅れるんだからね……」
部員の反応が鈍かったのも無理はない。亜大は自他ともに認める雑草軍団、高校時代に大活躍したエリートは皆無に等しい。当時の箱根駅伝は駒澤大学が4連覇中。その無敵の絶対王者に亜大が勝つと、だれが想像できるだろうか。
平凡なタイムは伸びしろの鉱脈。
だが岡田の胸の内には、過去最高の3位は超えられるかもしれない、という感触があった。
「2年前にまさかまさかの3位になったとき、メンバー10人の中にインターハイ経験者は1人もいなかった。このとき、実績がなくても徹底して鍛えればできるんだという手応えを得たんです」
岡田は指導者として、ひとつの信念を持っている。それは高校時代のタイムで、選手の資質を判断しないということだ。
若者の可能性を信じる岡田は、亜大に来る学生の平凡なタイムは資質の欠如ではなく、伸びしろの鉱脈だと捉えた。
「タイムが悪い子は高校時代にあまり練習をしていない。逆に見れば、伸びる可能性があるわけです。特に練習環境に恵まれない、東京の子はそう。大学でちゃんと練習すれば確実にタイムは上がりますよ」
箱根駅伝は他に類を見ない過酷なレース。それもまた、岡田監督が実績に縛られない理由のひとつだ。