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[平成18年第82回大会優勝] 亜細亜大学「駒沢大学5連覇を阻んだ“雑草魂”」 

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byPHOTO KISHIMOTO

posted2015/12/17 07:00

[平成18年第82回大会優勝] 亜細亜大学「駒沢大学5連覇を阻んだ“雑草魂”」<Number Web> photograph by PHOTO KISHIMOTO

最終走者、岡田直寛は直前までの緊張を克服し、確かな足取りで快走。亜細亜大初優勝のゴールを切った。

「2位で持ってきてくれた。これはおいしい!」

 翌日、雑草軍団が真価を発揮する。7区の綿引一貴、8区の益田稔の好走によって2位に浮上。このとき先頭に立っていたのは、5連覇を狙う駒大だった。序盤から二転三転した先頭争いを、最後は王者が制すると思われた。だが、9区でもうひと波乱起きる。

 1分12秒差の2位で襷を受けた山下拓郎は、前を行く駒大を追いたい気持ちを堪え、いつものリズムで走り始めた。

「2位で持ってきてくれた。これはおいしい! 鳥肌が立ちましたね。でも、逸る気持ちを抑えました。常々、『勢いだけで行ってしまうと、終盤に潰れる』と監督に言われていましたから」

 やがて先頭につく中継車が見えてきた。それが次第に大きくなり、19キロ過ぎ、ついに駒大を捉える。沿道の熱狂が、山下を昂らせる。だが、心は冷静だった。すぐには抜こうとせず、後ろについて息を整え、中継所まで残り2.5キロ地点で一気にスパートした。2位に42秒差をつける区間賞の走り。山下は運営管理車の岡田に向かい、拳を突き上げた。

 元旦の言葉が現実になろうとしている。9区で山下の走りを見守りながら、岡田監督は鶴見中継所で襷を待つ最終走者、岡田直寛に電話をかけた。

「2位になるんだ!」

「おまえ、大丈夫か?」

「はい! 大丈夫です!」

 言葉とは裏腹に、声は上ずっていた。そんな教え子に監督は怒鳴った。

「亜細亜大学 の最高成績は3位だぞ。だから2位でいいじゃないか。準優勝を狙え。抜かれてもいい。2位になるんだ!」

「はい、わかりました」

 岡田直寛が落ち着きを取り戻したところで、監督は電話を切った。もう心配はいらない。岡田は浮足立つどころか、確かな足取りで駒大との差を広げ、仲間の待つ大手町のゴールへ飛び込んだ。

「2位を狙え」

 咄嗟に出た監督のひと言は、長い指導者人生の中でも飛び切りの名言だろう。だがそれは、単なる思いつきではない。

【次ページ】 雑草軍団の生きる道。

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